ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
それは、テレビで見るのとではまるで比べ物にならないほどの景色。
遠く遠く、地平線の彼方まで続くのではないかと思うほどの黄色い花の海。
その間に導くようにひらかれた道があって、私は無意識に足を踏み入れていた。


「…ねぇ、ここ、入っていいの?」

「多分大丈夫」


既に足は入れているのだけれど、一応尋ねると曖昧な返事が返ってきたので私は一瞬躊躇う。それでも好奇心が打ち勝ってその道を進んだ。

太陽に背を高く伸びる大輪の花。同じように上を向いていられたなら一番いいのだろうけれど、それは少し眩しすぎて私には難しい。
だから代わりに私はカメラを取り出して、世界で一番大切で愛すべきその人にレンズを向けた。


「笑って!」

「急だね、いきなり言われると難しい。……ん」

「うわー、下手くそ!」

「うるさいなぁ、慣れてないんだよ」


少し焦って、不器用に向けられた笑顔が愛しい。
カシャリとシャッターを切れば、切り取られた思い出の中に誘拐犯さんの笑顔が刻まれる。

カメラをしまえば途端に不機嫌な顔に戻るものだから、もう少し撮っておけばよかったなと少し後悔。けれど目が合えばまた柔らかく笑ってくれるから、まぁいいか、と思い至った。

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