ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
私はそっとその手をとって、祈るように自らの額に当てた。


「…一緒にいるよ。だって誘拐犯さんが約束してくれたもん、幸せが怖くなくなるまで傍に居るって。私はまだ、誘拐犯さんがいてくれないとひとりじゃ何もできないもの」

私が笑えば、誘拐犯さんは目を見開いた。

「ちゃんと言ってくれた。それなのにいつまでも根に持つほど私性格悪くないよ?」

両手を頬に添えて目を合わせた。
灯りに照らされて一瞬ヘーゼルに光った瞳。愛おしさで溢れて潰れてしまいそうな胸が苦しかった。

「………ごめん、ありがとう」

私の肩に頭を落とした誘拐犯さんは小さな声で言って肩を揺らしていた。
私はただ背中を同じテンポで撫で続けていた。落ち着くまで、誘拐犯さんが息の仕方を思い出すまでそうしていたかった。

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