ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
意外にも火は簡単に灯り、暫くするとパチパチと音を立てて弾けた。

「…綺麗だね」

「うん…あ、ねぇねぇ誘拐犯さん、どっちが続くか競争しようよ!」

「いいよ」


そっとふたり息を止めて、時が止まったかのような沈黙。
手元で弾ける小さな花火は大きくなり、やがてまた小さく萎んでいった。
そろそろ手が疲れてきた頃、誘拐犯さんが私を見ていることに気付いて顔を上げた。

「なぁに」

ぽとり、火が落ちた。

「あ」

「俺の勝ちだ」

「うっわ、今のはずるいよー!」

誘拐犯さんの腕を引いて、わざと火を落としてやった。
あ、と声を上げた誘拐犯さんは私の頭を軽く叩いた。
鼻先が触れてしまいそうなほどに近い距離。ああ、このまま目でも瞑ってしまえば優しく唇を重ねてくれたりするのだろうか。
それでも私は潔く身を離して、落ちて色を失ってしまった点を見つめた。

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