ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
「ね、美味しい?どう?うふふ、美味しいでしょ」
「ああうん、はいはい、美味しいよ」
「何よぅ、もっと美味しそうに言って!」
「これで5回目だよ。何回言えば気が済むの」
どうやら手作りのものを食べるのは本当に久しぶりだったようで、美味しい、美味しいと繰り返しながら食べてくれた。しかし私がしつこく聞く所為か、段々と適当になっていく返事。
それでも、言葉とは裏腹に止まらない誘拐犯さんの箸に自然と口角が上がった。
黙々と食べる誘拐犯さんに私は声を掛ける。
「ねぇ誘拐犯さん。私ご飯作れるから、明日も此処にいていい?」
目だけをこちらに向けて私を見ていた誘拐犯さんが箸を止めた。
ことり、箸を置く音。
その沈黙を嫌だとは思わなかった。怒られるだなんてひとつも考えてなどいない。
誘拐犯さんが言う答えは見えていて、そうでなければこんなことは言わない。
私は、私が傷つくのがなによりこわいのだ。
「…いいよ」
誘拐犯さんはたった一言で簡潔に答えてから、また箸を手に持った。
私は笑う。いつものように笑って、そうして口先の器用な言葉で高い声を上げた。
「やったー!誘拐犯さん大好き!恋しちゃう!好きになっちゃう!」
「黙りなさい」