ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
「…私が、観てもいいの?」

「君と観たいんだよ」


この人はどうしていつも、こうも私の心臓を挿すのだろうか。
その言葉のあまりにも大きな意味に涙が出そうになってしまう。

「紅茶とコーヒーとココア、どれがいい?」

「……午後ティーでおなしゃす」

キッチンに立った誘拐犯さんは了解、とひとつ返事をすると、ミルクティーの入ったマグカップをローテーブルにおいた。誘拐犯さんはコーヒーを飲むようだ。立ち昇った湯気が何かの形を作るでもなく消えてゆく。部屋のカーテンを閉めた。

円盤をセットして映画が流れるまでいくつかの広告。
普段はさっさと飛ばしてしまいたくなるものの、今回は飛ばさず黙って見ていた。

「……始まる」

「うん」

「この映画、好き?」

「俺はね」


他愛のないやり取りの中映画は流れ出し、再び沈黙になった。
物語は、何度か観たことがあるような恋愛ものだった。
ゆらゆらと海のように揺れる画面。胸が詰まるような切ない恋心を表現するジムノペティ。
それらはどれも心地よくて、映画がつまらないわけではないのに不思議と眠気を誘われるような雰囲気だった。

私は暗くなった部屋の中、誘拐犯さんの肩にそっと頭を預けた。

< 94 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop