ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
映画はハッピーエンドともバットエンドとも言い難い結末を迎え、エンドロールに入った。
私たちはエンドロールの最後、監督の名前が流れるまでひとつも動かなかった。


「…ねぇ、最後、どう思う?」


耳に残ったままの夜想曲。カーテンを開けて、似合わぬひだまりに包まれた誘拐犯さんに問う。批判をするつもりは微塵もなかった。ただ最後の2人の選択について、正しい正しくないは抜きとして思ったことを尋ねた。


結末は、捉え方によってはとても幸せなことであり、そしてとても残酷でもあった。

心中という選択。
愛する人と命を絶つこと、愛する人を残して死ぬこと、愛する人に先に旅立たれること。果たしてどれが一番辛く悲しいことなのだろうと考えてみても、答えはでない。


「…どうだろう。よく分からないけど、でも、愛する人と死ねるっていうのは自分にとってはとても幸せなことなんじゃないかなって、思うよ。君は?」

「……分からない」

「難しいよね」


私たちの内側には、どうしてもまだ何かを失うという感情がこべりついたまま拭えないのだ。だからだろうか、妙に人肌が恋しい。そんな言い訳で誘拐犯さんの腕にぴたりと寄り添った。


「……暑いよ」

「いいじゃん、別に―」

「駄目とは言ってないよ」


ちらりと私を見て髪を撫でつけた誘拐犯さんの手はとても優しかった。

視線だけ向けると、目が合う。この珍しく静かな雰囲気にまだ浸っていたくて、数分前に画面の中で女優さんが口にした言葉を自らの声で焼き直して見せた。


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