磁石の定義
朝から数学の授業とは、気だるいにも程がある。
でも今日は、そんなくらいの不幸なら、許せる気分だ。
和也くんがうちに来る。
和也くんがうちに来る。
まだ先のことなのに、今から胸がはずんでいる。
「千代、今日はなんだかきれい。いつもよりかわいいよ」
また、明穂は朝から変なことを言う。
「ん? いつもと変わらないよ。化粧なんてしてないよ?」
すかさず明穂が否定する。
「違うよ、そういう風なきれいじゃないよ。
なんていうか・・」
「なんていうか?」
うーんと考えてから、明穂が言う。
「千代は 言わないけど、何かいいことがあったんでしょ?千代をそんなにかわいく、きれいにさせる人と。
千代、その人に恋、しているんじゃないの?」
女の子は恋すると、かわいくなるんだよ、と明穂が続けたけど、そんな事はどうでも良かった。
私は明穂の 恋、という一言だけに過剰に反応した。
強いていえば、和也くんに対する自分の感情が、恋愛感情であるという事実に初めて出会った。