あなたが生きるわたしの明日
陽子さんはこんな顔なのか。
まじまじと自分の、いや陽子さんの顔を見つめる。
鎖骨の長さの真っ黒なストレートの髪で前髪はない。
きりっとした眉毛は意思の強さを感じさせる。
やや釣り目の目に薄い唇。
美人なんだけど、ちょっときつそうな顔立ちで、とても和服が似合いそうな人だ。
「陽子さん、おはよう」
鏡の中の陽子さんに微笑みかける。
笑うと少し表情が柔らかくなる。
鏡に顔を近づけると、お母さんの顔にあるようなちいさなそばかすがたくさんあることに気付く。
眉毛も薄いし、とてもじゃないけど、このままの顔で会社に行くのはまずいだろう。
「メイクしようっと」
洗面台にあったメイクポーチを手にリビングに戻り、テレビをつけようとリモコンを探しながらふと気づく。
この部屋、テレビがないじゃない。
帰ったらまずテレビをつける私からすると信じられない。
見るわけではなくても何かしらの音がテレビが流れていないとなんだか落ち着かないのだ。
「テレビ買っちゃおっかな」
部屋の感じからすると、陽子さんお金持っていそうだし、それくらいいいよね。
あと、明るい色のスカートとかカットソーとかも買っちゃおう。
春だし。なんだか少しわくわくしてきた。
「これなんだろ?」
メイクポーチを開けてみたものの、使い方のよくわからないものがたくさん入っている。
似たようなチューブがたくさんあって、その代わり、私のメイクポーチには必ず入っている眉マスカラやジェルライナーが入っていないのだ。
ひとつひとつ、チューブの裏を確認すると、化粧下地、カラーコントロール、コンシーラーと書いてあった。それが一本ずつではなく、何種類もある。
私はファンデーションはあんまり使わなくて、そのかわりアイメイクに全力を注いでいたのだけど、陽子さんはファンデーションに全力を注いでいるようだ。
塗り方の順番がよくわからないけれど、とりあえず全部顔に塗ってみればいいかとやってみた。
だけど、塗れば塗るほど、目のところや口の回りのしわにファンデーションが入り込んで、しわが目立ってしまうという大惨事になってしまった。
ファンデーションなんて、ぱぱっと適当に塗ればなんとかなると思っていたのに、それは私が十八歳だったからなのかと鏡の前でため息をつく。
眉マスカラもないから、アイブロウで眉を仕上げてみたけど、なんだかくっきりし過ぎて陽子さんのきつい顔立ちがよけいにきつくなってしまうし、チークも目の下にすると陽子さんには似合わない。
すればするほど、チグハグな顔になってしまう。
でも、それは私が悪いんじゃない。
メイク道具が悪いのよ。
帰りにメイク道具を一式買ってやろうと思いながら、着替えを済ませた。
時計を見るともう七時半だ。
それを見た瞬間、やばい、遅刻する!と思った。
それはたぶん陽子さんの感覚なのだろう。
だって、私だったらまだのんびりテレビを見ている時間だから。
クローゼットのそばに置かれていた黒いバッグを手に取り、玄関でベージュのパンプスに足を入れた。
どこへ向かうかはなんとなく分かる。
きっと、陽子さんが教えてくれる。
まじまじと自分の、いや陽子さんの顔を見つめる。
鎖骨の長さの真っ黒なストレートの髪で前髪はない。
きりっとした眉毛は意思の強さを感じさせる。
やや釣り目の目に薄い唇。
美人なんだけど、ちょっときつそうな顔立ちで、とても和服が似合いそうな人だ。
「陽子さん、おはよう」
鏡の中の陽子さんに微笑みかける。
笑うと少し表情が柔らかくなる。
鏡に顔を近づけると、お母さんの顔にあるようなちいさなそばかすがたくさんあることに気付く。
眉毛も薄いし、とてもじゃないけど、このままの顔で会社に行くのはまずいだろう。
「メイクしようっと」
洗面台にあったメイクポーチを手にリビングに戻り、テレビをつけようとリモコンを探しながらふと気づく。
この部屋、テレビがないじゃない。
帰ったらまずテレビをつける私からすると信じられない。
見るわけではなくても何かしらの音がテレビが流れていないとなんだか落ち着かないのだ。
「テレビ買っちゃおっかな」
部屋の感じからすると、陽子さんお金持っていそうだし、それくらいいいよね。
あと、明るい色のスカートとかカットソーとかも買っちゃおう。
春だし。なんだか少しわくわくしてきた。
「これなんだろ?」
メイクポーチを開けてみたものの、使い方のよくわからないものがたくさん入っている。
似たようなチューブがたくさんあって、その代わり、私のメイクポーチには必ず入っている眉マスカラやジェルライナーが入っていないのだ。
ひとつひとつ、チューブの裏を確認すると、化粧下地、カラーコントロール、コンシーラーと書いてあった。それが一本ずつではなく、何種類もある。
私はファンデーションはあんまり使わなくて、そのかわりアイメイクに全力を注いでいたのだけど、陽子さんはファンデーションに全力を注いでいるようだ。
塗り方の順番がよくわからないけれど、とりあえず全部顔に塗ってみればいいかとやってみた。
だけど、塗れば塗るほど、目のところや口の回りのしわにファンデーションが入り込んで、しわが目立ってしまうという大惨事になってしまった。
ファンデーションなんて、ぱぱっと適当に塗ればなんとかなると思っていたのに、それは私が十八歳だったからなのかと鏡の前でため息をつく。
眉マスカラもないから、アイブロウで眉を仕上げてみたけど、なんだかくっきりし過ぎて陽子さんのきつい顔立ちがよけいにきつくなってしまうし、チークも目の下にすると陽子さんには似合わない。
すればするほど、チグハグな顔になってしまう。
でも、それは私が悪いんじゃない。
メイク道具が悪いのよ。
帰りにメイク道具を一式買ってやろうと思いながら、着替えを済ませた。
時計を見るともう七時半だ。
それを見た瞬間、やばい、遅刻する!と思った。
それはたぶん陽子さんの感覚なのだろう。
だって、私だったらまだのんびりテレビを見ている時間だから。
クローゼットのそばに置かれていた黒いバッグを手に取り、玄関でベージュのパンプスに足を入れた。
どこへ向かうかはなんとなく分かる。
きっと、陽子さんが教えてくれる。