あなたが生きるわたしの明日
「俺もなにがなんだかわかんないんだよ。課長、今になってどっと疲れが出てきたのかな」

「疲れとあだ名となんの関係があるのよ」

亜樹ちゃんがもっともな言葉を返す。

「それは俺もわかんないけど、なんていうか頭のネジがゆるんじゃった的な?」

凪くんがそう言うやいなや、亜樹ちゃんはものすごい早さで立ち上がった。
ローラーのついた椅子がからからからとずいぶん遠くへいってしまうほどの勢いで。

「大原、あんた課長に向かってなんて失礼な言うの!? 課長は仕事が出来る、そりゃもう頭がキレる人なのよ! あたしやあんたや堀田さんとは訳がちがうんだからね! あんな事がなけりゃ、この会社のゴミ箱みたいな部署にいる人じゃないんだからね! 次に課長のことを悪く言ったら許さないからね!」

「ちょっと、江原さん!」

凪くんが私を見ながら、慌てた様子で亜樹ちゃんをとめる。
ほっちゃんは私と亜樹ちゃん、凪くんを交互に見ながら、また涙を浮かべている。

「なによ!」

「わかったから落ち着いて」

「あんたはなんにもわかってない! 課長は掃き溜めに鶴のまさに鶴なのよ! 入社したときからのあたしの憧れの人なんだから! あんな男に引っかかなければ、今も商品企画部でもっともっと素敵な商品を開発してたんだから!」

凪くんがは「あーあー」と言いながら頭を抱え、ほっちゃんはとうとうデスクに突っ伏してしまった。

「ほんとにもう。大原が失礼な事言ってるしまってすみません。堀田さんもなにしてるの? 顔を上げなよ。全く、同期としてほんとにお恥ずかしいです。だから、あたしたちの年は外れ年なんて言われて、担当の人事部長が左遷されちゃったとか噂されるんですよね」

亜樹ちゃんは照れ臭そうに前髪を指で引っ張ってから「さ、仕事しましょう」とデスクに座り直した。

それから「ちょっと驚いたけど……課長に亜樹ちゃんって呼んでもらえるなんて、嬉しいです」とにっこり私に微笑みかけた。





< 24 / 94 >

この作品をシェア

pagetop