あなたが生きるわたしの明日
「明日から、このファイル全部整理しようよ」

私の提案に三人は揃って「え!?」と驚いた顔をした。

「課長、どうしたんすか!?」

凪くんが大きな声を出す。

「だって、きちんと並んでいなくて気持ち悪いじゃない?」

「そりゃ、そうっすけど……」

「めんどくさいわけ?」

「いや……じゃなくて、課長らしくないっていうか」

凪くんに言われてギクリとした。
『人格が崩壊することは禁止』されているのだ。
ファイルの整理するくらい、人格が崩壊するとまではいかないんじゃないだろうかとは思うけど、怪しまれないように気をつけなくては。
陽子さんらしく。
陽子さんがしそうなこと。
でも、私は陽子さんのことを実はなんにもしらないのだ。

「課長らしくないって言うけど、じゃあ私のイメージってなに?」

わからないなら人に聞けばいい。
我ながらいいアイデアだと思ったのだけと、凪くんはふるふると首を横に振る。

「あ、いや……そんなの、言えないです」

「どうして? なんかあるでしょう? 優しいとか明るいとか元気とか」

「あー、そ、そうっすね。えーと……お、落ち着いてる、ですかね」

「他には?」

「えーと、そうっすね。……江原さん、なんかある?」

話を振られた亜樹ちゃんは「わ、私!?」と慌てる。

「あ、仕事が出来る女って感じです、はい」

「ふぅん。他には?」

「他には!? ええと……堀田さん、なんかある?」

「わ、私は……特に」

ほっちゃんはそれだけ言うと、うつむいてしまった。
これ以上聞くとほっちゃんが泣きそうなので、本当はもっと聞きたかったのだけどやめておく。
それにしても、イメージを答えるだけなのにこんなにみんなが言いにくそうにするなんて、陽子さんは一体どんな人なんだろう。
不倫とかなんとかでこんな暇な倉庫に行かされているみたいだけど、仕事はきっと出来る人にちがいない。
それなのに、「ファイルの整理をしよう」というだけで『らしくない』と言われる。
なんだか陽子さんがどんな人なのか、私にはさっぱりわからないのだ。

「明日は朝から全員でファイルの整理をします。私がそう決めた。いいわね?」

とりあえず、いい暇潰しにもなるだろうし。

三人がまだ腑に落ちないといった顔をしながらも「はい」と答えたところで、鐘の音が鳴った。

「お疲れさまでーす」と口々に言いながら、三人が出ていくと、私も帰り支度をして会社をあとにする。
朝、出勤したときとおなじでキラキラしたフロアの人たちがまぶしい。彼らはまだ私語とがあるようで、みんないそがしそうにしていた。

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