あなたが生きるわたしの明日
「おはようございます」
総務部のドアをあけ、すれ違う社員に元気よく挨拶をしながら倉庫にむかう。
ドアを開けるとまだ誰も来ていない。
昨日もそうだけど、みんな始業ぎりぎりにくるようだ。
倉庫内のたくさんあるファイルを適当に手に取り、中を開いてみる。
これはどうやら営業部というところの受注書というものらしい。
そのすぐ隣のファイルを開いてみると、OA機器の保守契約という書類が挟まれているし、その隣には社会保険手続と書かれた書類が挟まったファイル、その隣には安全衛生管理……。
このファイルの中身がなんなのかはわからないけれど、これが五十音順にも、年月順にも並んでいないことくらいはわかる。
このバラバラのファイルをどうやって整理していけばいいだろう。
始業ぎりぎりになったところでようやく三人がそろった。
亜樹ちゃんが「今日のファッション素敵ですね! それにメイクもなんかいつもと違う!」と誉めてくれたので、すっかり気分がよくなる。
「さっそく、このファイルを整理しようと思うんだけど、どうすればいいと思う?」
漫画本や丸い玉や手鏡にそれぞれ手を伸ばそうとしていた三人は揃って「え?」と顔をあげる。
「ほんとにやるんすか?」
凪くんが間抜けな声を出した。
「当たり前でしょ」
だって暇だし。
「まじっすか!? この大量の資料を?」
「だってぐちゃぐちゃで気持ち悪いじゃない?」
「いや、別に気にならないっす」
「わ……私は少し気になります」
ほっちゃんが小さな小さな声で言う。
「いや、俺ね、前から思ってたんですけど、この秩序のないファイルの置き方もなんか俺に重要な仕事させるために意味のある事なんじゃないかなって」
「うるさい」
亜樹ちゃんが一喝し、凪くんは口をとじた。
「じゃあ……まずファイルの背表紙にタイトルをつけて……ラベルライターでシール出しましょうか? それから部署ごとに分けるのはどうでしょう? 総務部、営業部、企画部、人事部、情報システム部、広報部、それくらいでしょうか?」
亜樹ちゃんの言葉に、ほっちゃんがうんうんとうなづく。
私じゃ、このファイルをどう分類すればいいかまったくわからないから、亜樹ちゃんがテキパキと提案してくれて助かる。
「うちの課にはラベルライターがないから、他の部署で借りてこないとダメっすね。総務部、企画部、営業部、人事部あたりは持ってるんじゃないっすか?」
凪くんが立ち上がる。
一人でよっつも借りに行くのは大別だろうと思い「手分けして借りに行きましょう」
と言うと、亜樹ちゃんが固い表情で言った。
「すみません。私、営業部だけは絶対嫌です」
前にいた部署なんで、と小さな声で付け加える。
「じゃあ、亜樹ちゃんは、ええと人事部? お願い」
凪くんがのんきな声で「俺はどこでもいっすよ」と言うので、営業部をお願いする。
ほっちゃんはなるべく近くの部署のほうが行きやすいのかなと思い、総務部に行ってもらうことにした。
「じゃあ、私は企画部? 行ってくるね」
最後に残ったのが企画部だったのでそう言ってドアに向かおうとすると後ろから「えっ」と三人の声がした。
「なに?」
「あ……大丈夫、ですか?」
「大丈夫ってなにが?」
「いや……別に」
何か言いたげな顔をしているようにも見えたけど、早くファイルの整理を始めたくて私は気にせずドアを閉めた。
あの三人はたまにああいう顔をする。
なにか気を遣われているのをすごく感じる。
そういうのは、雰囲気とか空気とか気配で感じるものだ。
陽子さんがあの三人より年上だからなのか、課長だからなのかわからないけれど、言いたいことがあるなら、ハッキリ言ってくれればいいのに。
総務部のドアをあけ、すれ違う社員に元気よく挨拶をしながら倉庫にむかう。
ドアを開けるとまだ誰も来ていない。
昨日もそうだけど、みんな始業ぎりぎりにくるようだ。
倉庫内のたくさんあるファイルを適当に手に取り、中を開いてみる。
これはどうやら営業部というところの受注書というものらしい。
そのすぐ隣のファイルを開いてみると、OA機器の保守契約という書類が挟まれているし、その隣には社会保険手続と書かれた書類が挟まったファイル、その隣には安全衛生管理……。
このファイルの中身がなんなのかはわからないけれど、これが五十音順にも、年月順にも並んでいないことくらいはわかる。
このバラバラのファイルをどうやって整理していけばいいだろう。
始業ぎりぎりになったところでようやく三人がそろった。
亜樹ちゃんが「今日のファッション素敵ですね! それにメイクもなんかいつもと違う!」と誉めてくれたので、すっかり気分がよくなる。
「さっそく、このファイルを整理しようと思うんだけど、どうすればいいと思う?」
漫画本や丸い玉や手鏡にそれぞれ手を伸ばそうとしていた三人は揃って「え?」と顔をあげる。
「ほんとにやるんすか?」
凪くんが間抜けな声を出した。
「当たり前でしょ」
だって暇だし。
「まじっすか!? この大量の資料を?」
「だってぐちゃぐちゃで気持ち悪いじゃない?」
「いや、別に気にならないっす」
「わ……私は少し気になります」
ほっちゃんが小さな小さな声で言う。
「いや、俺ね、前から思ってたんですけど、この秩序のないファイルの置き方もなんか俺に重要な仕事させるために意味のある事なんじゃないかなって」
「うるさい」
亜樹ちゃんが一喝し、凪くんは口をとじた。
「じゃあ……まずファイルの背表紙にタイトルをつけて……ラベルライターでシール出しましょうか? それから部署ごとに分けるのはどうでしょう? 総務部、営業部、企画部、人事部、情報システム部、広報部、それくらいでしょうか?」
亜樹ちゃんの言葉に、ほっちゃんがうんうんとうなづく。
私じゃ、このファイルをどう分類すればいいかまったくわからないから、亜樹ちゃんがテキパキと提案してくれて助かる。
「うちの課にはラベルライターがないから、他の部署で借りてこないとダメっすね。総務部、企画部、営業部、人事部あたりは持ってるんじゃないっすか?」
凪くんが立ち上がる。
一人でよっつも借りに行くのは大別だろうと思い「手分けして借りに行きましょう」
と言うと、亜樹ちゃんが固い表情で言った。
「すみません。私、営業部だけは絶対嫌です」
前にいた部署なんで、と小さな声で付け加える。
「じゃあ、亜樹ちゃんは、ええと人事部? お願い」
凪くんがのんきな声で「俺はどこでもいっすよ」と言うので、営業部をお願いする。
ほっちゃんはなるべく近くの部署のほうが行きやすいのかなと思い、総務部に行ってもらうことにした。
「じゃあ、私は企画部? 行ってくるね」
最後に残ったのが企画部だったのでそう言ってドアに向かおうとすると後ろから「えっ」と三人の声がした。
「なに?」
「あ……大丈夫、ですか?」
「大丈夫ってなにが?」
「いや……別に」
何か言いたげな顔をしているようにも見えたけど、早くファイルの整理を始めたくて私は気にせずドアを閉めた。
あの三人はたまにああいう顔をする。
なにか気を遣われているのをすごく感じる。
そういうのは、雰囲気とか空気とか気配で感じるものだ。
陽子さんがあの三人より年上だからなのか、課長だからなのかわからないけれど、言いたいことがあるなら、ハッキリ言ってくれればいいのに。