あなたが生きるわたしの明日
倉庫に戻ると他の三人はもう戻ってきていた。
ほっちゃんが薄い水色のハンカチで目を押さえながらしくしくと泣いている。

「どうしたの?」

亜樹ちゃんに聞くと「総務部の人間がラベルライター貸してくれなかったそうです」と怒りながら教えてくれた。

「え……どうして? 他の人が使ってたとか?」

「……いえ『書類整理課がラベルライターなんかなにに使うんだよ。……仕事なんかないくせに』……と部長に言われまして……」

ほっちゃんが途切れ途切れに説明する。

「なにに使うって……そんなのこっちの勝手じゃない。仕事で使うのにいちいちそんなこと説明しなきゃダメなの? 仕事柄ないくせに、って余計なお世話だっつーの 」

「そうなんですけど……うちの課は、会社のはきだめ課とかお荷物課とか暇つぶし課とか、まぁいろいろな言われ方してますから……」

はきだめ課
お荷物課
暇つぶし課

他のはともかく、暇つぶし課は当たっていないこともない。

「ひどい言われようなのね」

亜樹ちゃんが、泣いているほっちゃんの背中をさする。

「私はもう慣れましたけどね。課長がそう言われるのは腹が立ちます」

そう言って鼻の穴を膨らませる亜樹ちゃんを見て、私は笑ってしまった。
亜樹ちゃんは、陽子さんが大好きなのだろう。

自分のことじゃなく、人のことでこんなに本気で怒れるなんて、驚きを通り越して感心してしまう。

「堀田さん、きっと他の部署のやつらはうちの課がなにをしているか、興味津々なんだよ」

それまで黙っていた凪くんが口を挟む。

「いろいろ言ってくるやつらはつまり俺達が羨ましいんだろうね」

「ああ、はいはい。そうだね」

めんどくさそうに亜樹ちゃんは相づちをうった。


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