あなたが生きるわたしの明日
生まれて初めて来た居酒屋という場所はとても賑やかなところだった。

海鮮料理が売りのチェーン店で、全部個室になっている。
そこらかしこから賑やかな笑い声が聞こえていた。

金曜日という曜日のせいなのか、午後七時という時間のせいなのか、その両方なのかわからないけれど、お店は満席で凪くんが予約をしてくれていなかったら席に座れなかっただろう。

「とりあえずビールでいいっすか?」

凪くんの『とりあえずビール』という言葉の響きが大人という感じがしてどきどきする。
「うん」と答えたものの、一度だけカラオケで大学生と飲んだビールの苦さとまずさを思い出し、少しだけ不安になった。

「では、お疲れ様でーす」

ビールが四つ届くと凪くんと亜樹ちゃんが元気な声でいい、私たちはジョッキをこつんと鳴らしあった。
恐る恐る口をつけてみると、苦いのは苦いけど不思議とその苦さがおいしい。
炭酸がのどを通るときの感触もなんだか悪くない。

「おいしい」

のどが渇いていたのもあって、ジョッキ半分ほど一気に飲んでしまった。

三十八歳になるとこんな苦いものがおいしく感じられるようになるのか。
口元もしわとか、すぐ痛くなる腰は嫌だけど、ビールがおいしく飲めるようになったのは嬉しい。

テーブルの上に乗りきらないほどの料理が次々に運ばれてくる。
さっき、私がメニューを開いておいしそうに見えたものを全部注文したのだ。

「すごい量ですね」

亜樹ちゃんがおかしそうに笑う。

「食べよ食べよ」

ほっちゃんが配ってくれた割り箸を料理に伸ばすと、おなかがぐうと鳴った。
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