あなたが生きるわたしの明日
「こうやって課長と飲めるなんて嬉しいです」
ビールを三杯飲み終わった頃、ほっぺたをピンクに染めた亜樹ちゃんがにっこりと笑う。
「課長が書類整理課に異動してきて一週間経ちましたけど、最初のころは全然お話しもしませんでしたよね。なんだか、毎日塞ぎこんでおられたし、仕事に対しても無気力っていうか。書類整理課の仕事なんてやる気になれないのもわかりますけど。でも、最近あだ名で呼んでくれたり、仕事の指示を出してくださって、私すごく嬉しかったんです」
最近、というのは私が陽子さんに憑依してからのことだろう。
「私、実はずっと課長に憧れてたんです。社内誌のインタビュー記事もかっこよかったですよぅ」
「インタビュー……なんか出てたっけ?」
凪くんが、「蛍光ペンの開発秘話みたいなやつ! 俺も読みましたよ」と口を挟む。
「蛍光ペンっていうだけあって、蛍光色しかないってみんな思い込んでいましたよね。でも、私も学生の時に目がチカチカするから苦手だなぁって思ってたんです。それを、淡い色で作っちゃうなんて、しかも自分の働いてる会社がそれを出すなんてやるなぁ、って思ってたらそれを開発したのが女性だっていうからびっくりしたんです」
思わず、割り箸でつかんでいたお刺身をお醤油の中に落としてしまった。
「淡い色の……蛍光ペン?」
「目から鱗でしたよ。あれだと目がチカチカしないし、線をひいてもなんだかお洒落に見えるんですよね」
ほっちゃんが「わ……私もあれはすごいと思いました」と小さな声で声で言った。
「課長は気づいてないと思うんですけど、私何回か社食で隣に座ったこともあるんですよぅ。ランチしながらも書類を読んだり打ち合わせしててかっこよかったです」
「そうなんだ……」
「社長になんか賞もらったんですよね。私なんか、入社式のときにしか会ってないです」
「俺も俺も」と凪くんが枝豆を食べながら言う。
「そんな人と一緒に働くことになるなんて……それも、こんなはきだめ課って言われてるところで……」
さっきまでにこにこしていた亜樹ちゃんが急にぐすんと鼻をすすりだしてぎょっとする。
見れば凪くんとほっちゃんも手を止めて亜樹ちゃんを凝視している。
ビールを三杯飲み終わった頃、ほっぺたをピンクに染めた亜樹ちゃんがにっこりと笑う。
「課長が書類整理課に異動してきて一週間経ちましたけど、最初のころは全然お話しもしませんでしたよね。なんだか、毎日塞ぎこんでおられたし、仕事に対しても無気力っていうか。書類整理課の仕事なんてやる気になれないのもわかりますけど。でも、最近あだ名で呼んでくれたり、仕事の指示を出してくださって、私すごく嬉しかったんです」
最近、というのは私が陽子さんに憑依してからのことだろう。
「私、実はずっと課長に憧れてたんです。社内誌のインタビュー記事もかっこよかったですよぅ」
「インタビュー……なんか出てたっけ?」
凪くんが、「蛍光ペンの開発秘話みたいなやつ! 俺も読みましたよ」と口を挟む。
「蛍光ペンっていうだけあって、蛍光色しかないってみんな思い込んでいましたよね。でも、私も学生の時に目がチカチカするから苦手だなぁって思ってたんです。それを、淡い色で作っちゃうなんて、しかも自分の働いてる会社がそれを出すなんてやるなぁ、って思ってたらそれを開発したのが女性だっていうからびっくりしたんです」
思わず、割り箸でつかんでいたお刺身をお醤油の中に落としてしまった。
「淡い色の……蛍光ペン?」
「目から鱗でしたよ。あれだと目がチカチカしないし、線をひいてもなんだかお洒落に見えるんですよね」
ほっちゃんが「わ……私もあれはすごいと思いました」と小さな声で声で言った。
「課長は気づいてないと思うんですけど、私何回か社食で隣に座ったこともあるんですよぅ。ランチしながらも書類を読んだり打ち合わせしててかっこよかったです」
「そうなんだ……」
「社長になんか賞もらったんですよね。私なんか、入社式のときにしか会ってないです」
「俺も俺も」と凪くんが枝豆を食べながら言う。
「そんな人と一緒に働くことになるなんて……それも、こんなはきだめ課って言われてるところで……」
さっきまでにこにこしていた亜樹ちゃんが急にぐすんと鼻をすすりだしてぎょっとする。
見れば凪くんとほっちゃんも手を止めて亜樹ちゃんを凝視している。