あなたが生きるわたしの明日
「人を好きになるのは、仕方ないことだと思うんです」

「は?」

急に話が変わったと思ったら、凪くんが慌てた様子で「江原さん、その話は!」と止めようとする。

「なのに、課長だけ一方的に悪者にされて……。中野部長は卑怯です。いくら奥さん直々に会社に電話してきたからって、どうして課長だけ責められて左遷されるんですか?」

「させん?」

ほっちゃんが「江原さぁん……」と泣きそうな声を出す。
また亜樹ちゃんが地雷を踏んだようだ。

中野部長というのが、こないだ話しかけてきた人なのだろう。
陽子さんはあの人と不倫をしていて、それが奥さんにバレてしまったらしい。
会社に電話してくるなんて、ちょっと怖い。
そりゃ、不倫した陽子さんが悪いんだろうけど、陽子さん一人が悪いわけでもないと思うんだけど。

「いや、待って。左遷って言葉はおかしいって。書類整理課は別に左遷先じゃなくて、重要な仕事のプロジェクトを」

「大原、うるさい」

きっぱりと亜樹ちゃんに叱られて凪くんは黙り込んだ。

「誰が見たって左遷です。書類整理課なんていう課があることも知らない人がいるような、あってもなくても誰も困らない、なんの役にも立たない課なんです。会社のお荷物が集められているごみ処理場なんですよ」

「……そ、そこまで言いますかぁ」

ほっちゃんが情けない声で珍しく突っ込みをいれる。

「会社のお荷物……ごみ処理場……」

凪くんの手にしていた枝豆がぽとりと落ちた。

させん、という言葉がどういう意味なのかわからないけど、とにかく仕事ができない人が集められているのだろうな、とはなんとなく感じていた。

知らない人もいるくらいの課で、あってもなくても困らない課なんて。

それじゃまるで私みたいだ。
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