あなたが生きるわたしの明日
私はしばらくぽかんとしていた。
ふと見ると、向かいに座る凪くんもおなじ顔をしている。

「それって……」

つぶやくように凪くんが言った。

「すごくない?」

「すごいすごい!」

なんて、名案なんだろう!
思わず私は手を叩く。

「たしかに認知度は上がるでしょうね。と、いうよりいきなり超有名になっちゃいますよ」

亜樹ちゃんはそう言っておかしそうに笑ったあとで、「でも」と続ける。

「そんなに簡単にはいきませんよ、きっと」

「だけど、やってみようよ! 誰でも応募していいんだよね?」

ほっちゃんに再確認すると、「はい」と返事が返ってきた。

「でも堀田さん、なんでそんなに詳しいの?」

凪くんは見るからにわくわくした表情をしてほっちゃんに尋ねる。

「私……広報部にいたときに、表彰式の取材のお手伝いをしたことがあって……」

「それ、社内から何件くらいの応募があるの?」

亜樹ちゃんの質問にほっちゃんは「えっと……」と眉にしわを寄せた。

「そのへんは課長の方が詳しいんじゃない? なんせ課長は蛍光ペンの企画者なんだし」

ね!と無邪気な顔で凪くんに話を振られてドキッとした。

どうやってこのピンチを切り抜けようかなとあせっていると、「たしか……二百件くらいだったかと……」とほっちゃんが助け船をだしてくれる。

「……社内コンペは通常の企画部が通すものとは形式がちがうから、課長はあまりご存知ないかと……」

「そうなんだよね、うん! 形式が違うからね、うんうん!」

助かった、と思いながら無駄に何度もうなづいていると、ほかの二人も「そっかぁ、社内コンペは公募なんだもんね」と納得したようだ。

「その中から何件が選ばれるの?」

亜樹ちゃんがほっちゃんに向かって尋ねる。

「佳作が一件、優秀作が二作、最優秀作が一件……です」

「全部あわせても四件か」

亜樹ちゃんは腕組みをして天井あたりをにらみつけた。

「相当難しいですよ」

「でもさぁ! 俺、参加したい! 書類整理課で応募したい」

「そうだよ! なんかよくわかんないけど、それで選ばれたら有名にもなれるし、仕事も忙しくなるだろうし、一石二鳥じゃん!」

亜樹ちゃんはまだなにか言いたげだったけど、私たちはもう一杯ずつビールのおかわりを頼んでみんなで乾杯をした。

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