あなたが生きるわたしの明日
週明けの月曜日の朝、書類整理課のデスクの上には過去の社内コンペ関係のファイルが山積みになっている。
今朝、この倉庫の中からみんなで集めたものだ。

「書類整理課の特権ですよね」

満足そうに亜樹ちゃんが言う。満足そうというより得意げですらある。

「どの部署に所属してても応募できるっていうのは確かに建前みたいですね。実際は企画部の人ばっかだ。この年の最優秀賞もこの年も企画部所属って書いてある」

凪くんからファイルを受け取り、ぱらぱらとめくってみる。
確かに凪くんのいうとおりだった。
他にも数冊見てみたけど、企画部以外の人が賞を取ったことはないみたいだった。

「そもそも、ほかの部署の人が応募してないですよね」

私の後ろで一緒にファイルを見ていた亜樹ちゃんが言う。

「ほら、ここに応募作品が全部載ってますけど、ほとんどが企画部で……たまに営業部と……販売促進部がちょっとあるかな」

「全社員のアイディアを募集します! なんて言ってる割に、実際はほとんど企画部の中だけでやってる感じなんですね、課長?」

「……あ、うん。そうだね、確かにそんな空気はあったかな……なかったかな。正直、企画部でのことは、あんまり思い出せないって言うか……思い出したくないっていうか」

実際もなにも企画部でのことなんて全然わからないから、適当にごまかしておこうと思っただけの口から出まかせだったのだけど、他の三人がハッとするのがわかった。

「そうですよね。すみません」

凪くんに謝られて逆にこっちが謝りたいくらいだったけど、これで企画部のことは聞かれなくなったと思うと少しホッとする。

「今までの最優秀賞はどんなものだったけな」

少し重たくなってしまった空気が嫌で意図的に話を変える。

「この年は……静電気でくっつく付箋」

これ、私持ってた。ちょっと値段は高いけど何回も繰り返し使えるし、色がかわいいから気に入っていた商品だ。

「この年は、針のないホッチキスですね」

これでプリントをとめている先生がいたから、これも知ってる。
まだ小さい子供がいる先生で、これなら針が刺さる心配がなくていいと話していた。

「ヘッドが360度回転する修正テープの年もありますね」

「乾くと色が消えるスティックのりっていうのもありますね」

どれもこれも私の知っているものばかりだ。
私自身が持っていたものもあるし、周りの人が使っていたり。
つまり、それだけここで賞を取るということはすごいことなのだろう。

「こうして見てみると、まったくの新商品っていうわけでもないんだよなぁ」

まったくの新商品ではない。
凪くんの言葉を胸の中で繰り返す。
そうか。

「……付箋もホッチキスも修正テープもスティックのりも、前からある商品……」

「そうなんですよねぇ。でも、そこになんつーか工夫っていうか……発想を変えているんですよね、これ全部」

確かにそうだ。
そして、そのちょっとを変えるだけでものすごく使いやすくなったり、便利になったりするのだ。







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