あなたが生きるわたしの明日
陽子さんの体になってそろそろ二週間。
私もいろいろなことに慣れてきた。
陽子さんの部屋で目覚めることも、陽子さんの顔にメイクをすることにも。

夕方になるとくっきり表れる口のまわりの線は、ほうれい線と呼ぶのだそうだ。
亜樹ちゃんが教えてくれた。

書類整理課のみんなでランチに食べに行った話題のパンケーキは生クリームがたっぷりで、なぜか私だけ全部食べられなくて残してしまったりもしたし、仕事帰りに朝はちゃんとはけていたパンプスがはけなくなっていてびっくりしたりもするけど。

仕事が終わったあとのビールのおいしさに気づけたから。
陽子さんの体もなかなか悪くないと最近の私は思うのだ。

「おはよう!」

陽子さんの体に憑依していられるのはあと十七日。

聞けば、社内コンペの締め切りはもう二週間後に迫っているという。
今日から、みんなで企画書というものをつくらなければいけない、らしい。
ほっちゃんいわく。

「書き方……とかあるんですよねぇ?」

一台のパソコンの前に集まって、四人で途方に暮れる。
誰ひとりとして、そんなものを書いた人がいないのだ。

みんなすごく心細そう。もちろん、私も含めて。

「企画書ねぇ、どうやって書くんだっけなぁ。社内コンペは出たことないからなぁ」

まるでほかの資料なら作れるみたいな言い方だ。
自分でも笑ってしまいそう。

「あ、そうだ。その前にラベルライターを返しに行かないとですね」

亜樹ちゃんが思い出したように言い、それぞれが借りた部署に返しにいくことにする。
長いこと借りてたから、文句とか嫌味とか言われちゃうかなぁと少し憂鬱になりながら、書類整理課のドアを出た。

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