あなたが生きるわたしの明日
「それでですね」

森下さんには書類整理課の便利さがいまいち伝わらなかったみたいだけど、私は構わず続ける。

「その作業をしてるときに気づいたんですよ。ラベルライターってシールが出てくるじゃないですか? あれをいちいち剥がすのがすごく、面倒くさいんです」

あの面倒臭さはきっと経験した人にしかわからないだろう。

台紙があるタイプのシールとは違って、ラベルシールにはあそびの部分がないから本当にいらいらするのだ。
めくったあとのごみも静電気で舞うし、シールを出したのと同じだけのごみが出ることになる。

「だからね、セロハンテープみたいにしたらどうかなって思ってるんです!」

しばらく黙って考えるそぶりをしたあとで森下さんは「……なるほど」と小さな声で言った。

「しかし……印字部分やテープカッターの部分はどんな設計にされるつもりですか?」

「それは情報システム部の凪くんが、あ、元ですけど。考えてくれたんです」

私は凪くんが考えてくれた仕組みを森下さんに説明する。
私はあんまり理解できていなかったのだけど、森下さんには理解できたらしい。
森下さんは感心したように何度も深くうなづいた。

「それに、ラベルライターは会社で使うことが多いけど、ほら、お母さんって新学期とかにたくさん名前を記入しないといけないでしょう? だから、価格をできるだけ下げて若い人やお母さんが使いやすいようにしたらどうかなって」

ほっちゃんには来年小学校にあがる姪っ子がいるらしい。
その入学準備で、姪っ子のお母さんであるほっちゃんのお姉さんがたくさんの文房具に名前を書いているのを見たのだけど、それがものすごく大変そうだったらしい。

『……色鉛筆の一本一本に名前を書かなくちゃいけないそう……です』

それを聞いてみんな一様にうんざりした顔になった。

『……パソコンで作れるシールもあるけど、ラベルライターなら……パソコンにいちいち繋がなくても出来ますよね』

パソコンを持っていない若い人や、パソコンに詳しくないお母さんたちでも使いやすいように、なるべく安くして、いつか一家に一台ラベルライターがある時代が来ればいいね、とみんなで笑った。

「あと、デザインにもこだわろうと思っているんです」

これは私のアイデアだ。
ラベルライターは無機質なグレーのものが多いけど、女子高生の感覚としてはもっとかわいいものの方が使う人の気分が上がると思う。

なんせ女の子は『カワイイ』ものがなによりも好きなのだ。

「これがデザイン画です」

私はほっちゃんが書いてくれたイラストを見せる。

ほっちゃんは絵がすごく上手くて、私が頭の中で思い描いていたものをその通りにイラストにしてくれた。
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