あなたが生きるわたしの明日
「ラベルライターはうちの会社でも他の会社でも販売はしてるけど、そのままシールになって出てくるというのは聞いたことがないですね」

ええ、と私は胸を張る。
ちゃんとネットで調べたのだ。
うちの会社からはもちろん、他の会社からもそんな商品は販売されていない。

「いけると思うんです!……あ、すみません」

力を入れすぎて、空っぽになったカフェラテのカップを倒してしまった。

森下さんは目を丸くしてしばらく呆気にとられた顔をしたあと、くすくすと笑う。

「松川さん、なんだか雰囲気が変わりましたね」

「え?」

「服装とかもですけど、なんていうか雰囲気が、明るくなったというか……楽しそうというか」

「そ、そうですか?」

「なんか……前より素敵になりましたね。……って、そもそもなんで俺に対して敬語なんですか! 前みたいに普通に話してくださいよ」

森下さんは照れたように早口で言った。
普通にといわれても。
書類整理課のみんなとは最初からタメ語で話してたけど、他の部署の人はなんだか苦手なのだ。

だって、みんなジロジロ見てくるし、そのくせ、陰ではこそこそ悪口言うし。

「……あんなことがあって。心配してたんですよ、ずっと。でも、元気そうでよかった。俺で力になれることがあったら、なんでも言ってください」

森下さんはそう言うと、企画書の書き方を丁寧に教えてくれた。

表紙や目次の付け方から始まり、市場調査、分析の仕方、マーケティング戦略やアクションプラン、収支計画……。

初めて聞く言葉ばかりだったけど、私はその教えてもらったことをひとつも残らずノートにとった。
高校の授業でもこれほど真剣に話を聞いたことなどない。

途中で森下さんが何回も「これはご存知だと思いますが」と説明を省略しそうになったけど、そこは再確認の一言で押し通した。
ちょっと不自然だったかもしれないけど、おかげでバカな私でもなんとかみんなに説明できるようになったと思う。

気がつくと十時を過ぎていた。

さっきブルーベリースコーンを食べたばかりなのに、もうお腹がすいている。
帰りに買って、お風呂上がりに食べながらもう一度ゆっくり思い出に浸ろうかなどと考える。

「こんな遅くまでごめんなさい」

謝ると森下さんは「大丈夫ですよ」と笑ってくれた。

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