あなたが生きるわたしの明日
「あなたはご自分の命を大事にはしなかった。あなたが犯した最大の罪はこれです」

「大事に……してたわよ」

「いいえ、していません。歩きスマホは危ないとあれほど様々な媒体で伝えられていたのに。さらに、夜道の一人歩きでイヤホンで音楽を聞きながら歩くということが、どんなに危険で無防備な行動か、あなたは心のどこかでわかっていたはずだ。スマートフォンで何を見ていたのか知りませんが、せめて周りを見ていたら、せめてイヤホンをしていなければ、あなたは死なずにすんだのですよ。ちょっとしたことで死なずにすんだのに、あなたはご自分の命を大事にしていなかった」

サトルは淡々と言った。
言っていることに、ひとつの矛盾もなければ、言い返す言葉も見つけられない。
私だって、自分のしたことが悪かったことくらい、わかってる。
わかってはいるけれど、じゃあ反省して次は気をつけます、と言えないのだ。
だって、もう次なんてないのだから……。

「後悔するってこういう時に使う言葉だったんだね」

「ええ」

「やりたいことがまだまだあったのよ」

「ええ」

「みんなで卒業旅行に行こうってもう新幹線の予約もしてたのよ」

「ええ」

「卒業したらアパレルのお店でアルバイトしようと思ってたのよ」

「ええ」

「バリバリ仕事してさ、金曜日にみんなでお酒飲んだりさ」

「ええ」

「髪の毛だってもっと明るく染めてみたいと思ってたの」

「ええ」

「彼氏作って浴衣で夏祭りに行ってみたかった」

「ええ」

「サトルは知らないかもしれないけど、level7っていうダンスグループのツアーに一回くらいは行きたかったのよ」

「ええ」

サトルが私に反論せず、ただ「ええ」としか言わないことで、私はもうなにを言ってももうどうしようもないことなのだと悟った。

やりたかったことをひとつひとつ口にするたび、胸に沸き上がる感情は、『悲しい』ではなく、『悔しい』だ。

私の夢は、癌の特効薬を作りたいとか宇宙の神秘を解明したいとか世界中から貧困をなくしたいとか、そんな壮大なものではなくて、とてもささやかなものだったけれど、そのささやかな夢でさえも実現することがもう出来ないのだ。

出来たはずのことがもう出来ない。
最初から到底無理だと分かっていることならまだしも、出来たはずのことが出来なくなくやしさ。

もし次があったら、もし少し前に戻れたら、もしやり直すことができたら。
でも、私にはもう。

「無理なのよね」

質問ではなく、確認だった。

サトルはもう一度「ええ」と言った。







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