あなたが生きるわたしの明日
「かんぱーい!」
四つのジョッキが音をたててあわさると、その衝撃でビールがテーブルに少しこぼれた。
「あーあー」とおかしそうに笑いながらビールを口に運ぶ。
週の真ん中の日だからか、居酒屋はいつもより空いていた。
「課長、あれってどういうことなんですか?」
ビールを半分ほど一気に飲んだあと、凪くんが尋ねた。
その隣で亜樹ちゃんも、うんうんとうなづく。
きっと早くこの質問をしたくてうずうずしていたに違いない。
「ほっちゃんには、分かってるんだよね?」
左隣に座るほっちゃんは私の質問に「はい」と短く答えた。
「もしかしたら私たちのアイデアが盗まれるかもしれないと思って、キーボードのことだけは森下さんに話さなかったんですよね?」
「うん。ラベルライターを返しに言った時に森下さんもちょうど社内コンペの企画書を作ってるって言ってから。この人もライバルなんだなぁって思ったの。だけど、ある程度話さないと企画書の書き方もわからなかったし」
「でも、それだけで?」
もちろんそれだけじゃない。
森下さんが私の住んでいたのと同じ街に住んでいると知った時、私は森下さんに会ったことがあることを思い出したのだ。
友だちと駅前のコーヒーショップで話し込んでいる時に何度か。
森下さんは私たちを見るとこう声をかけてきた。
『パンツ売ってくれないかな?』と。
私と友だちはもちろん無視をした。
だけど、森下さんみたいな至って普通な、むしろ爽やかなサラリーマンにそんなふうに声を掛けられたことに対して驚いたし、軽蔑もした。
「知り合いの子がね……言ってたの。見た目が普通のサラリーマンほど気をつけろって」
「なんですか、それ」
真面目な顔で聞いていた亜樹ちゃんと凪くんがぷっと吹き出す。
パンツの話まではしなくてもいいだろうと思った。
誰にだって秘密はあるだろうし。
企画を盗まれたのは悔しいけど、だからと言って森下さんのちょっと変わった性癖を言いふらしていいわけじゃない。
四つのジョッキが音をたててあわさると、その衝撃でビールがテーブルに少しこぼれた。
「あーあー」とおかしそうに笑いながらビールを口に運ぶ。
週の真ん中の日だからか、居酒屋はいつもより空いていた。
「課長、あれってどういうことなんですか?」
ビールを半分ほど一気に飲んだあと、凪くんが尋ねた。
その隣で亜樹ちゃんも、うんうんとうなづく。
きっと早くこの質問をしたくてうずうずしていたに違いない。
「ほっちゃんには、分かってるんだよね?」
左隣に座るほっちゃんは私の質問に「はい」と短く答えた。
「もしかしたら私たちのアイデアが盗まれるかもしれないと思って、キーボードのことだけは森下さんに話さなかったんですよね?」
「うん。ラベルライターを返しに言った時に森下さんもちょうど社内コンペの企画書を作ってるって言ってから。この人もライバルなんだなぁって思ったの。だけど、ある程度話さないと企画書の書き方もわからなかったし」
「でも、それだけで?」
もちろんそれだけじゃない。
森下さんが私の住んでいたのと同じ街に住んでいると知った時、私は森下さんに会ったことがあることを思い出したのだ。
友だちと駅前のコーヒーショップで話し込んでいる時に何度か。
森下さんは私たちを見るとこう声をかけてきた。
『パンツ売ってくれないかな?』と。
私と友だちはもちろん無視をした。
だけど、森下さんみたいな至って普通な、むしろ爽やかなサラリーマンにそんなふうに声を掛けられたことに対して驚いたし、軽蔑もした。
「知り合いの子がね……言ってたの。見た目が普通のサラリーマンほど気をつけろって」
「なんですか、それ」
真面目な顔で聞いていた亜樹ちゃんと凪くんがぷっと吹き出す。
パンツの話まではしなくてもいいだろうと思った。
誰にだって秘密はあるだろうし。
企画を盗まれたのは悔しいけど、だからと言って森下さんのちょっと変わった性癖を言いふらしていいわけじゃない。