あなたが生きるわたしの明日
「ねぇ、サトル」

「なんですか?」

「サトルは最初私に、憑依される側にはなにか法則というか条件があるようですが私にはわかりかねますって言ったよね?」

部署が違うからとか個人情報保護法がどうとかさ。
早口で言い訳してたけど。

「本当は知っていたんじゃないの?」

「なにをですか?」

「憑依される人間の条件。それは、死にたがっていること。違う?」

サトルは表情を変えない。

「私ね、陽子さんが死にたがっているって知って悔しかった」

「悔しかった、ですか?」

「うん。だって、私は生きたかったのに死んでしまった。まぁ私の場合は自分にも悪いところはあったんだけど、それでも死にたくなんかなかった。陽子さんにどんなつらいことがあったのか、私は分かったようで本当は理解なんかしてないのかもしれない。でもね」

でも……。

「一度は死んでしまおうって思っちゃうくらいつらいことがあっても、人は変われるんだよ。生きてる限り、何回でも変われる。それに、自分が変われば周りだって変えていけるんだよ」

亜樹ちゃんや、凪くんや、ほっちゃんのように。
はきだめ課と言われてる書類整理課のように。

何回でも何回でも。

「人は変われるんだよ」

< 92 / 94 >

この作品をシェア

pagetop