あなたが生きるわたしの明日
気がつけば泣いていた。
頬を伝う涙の暖かさを私はもう感じることは出来ないけれど。

陽子さんも変わってほしい。
つらい日だってあるだろう。
未来がぜんぜん明るく見えなくて、もう終わらせたいと、今日で終わりならどんなに楽だろうと思う日もあるだろう。
もうあしたが来てほしくないと思う夜もあるだろう。

だけど、そのあしたは。

私が生きたかったあしたなんだよ。

あなたが生きるあしたは、私の生きたかったあしたでもあるんだよ。

「大丈夫ですよ」

穏やかな声でサトルが慰めるように言った。

「大丈夫です。私はこうも言いました。憑依されている期間の記憶について。『ぼんやりとしか覚えていないっていうのかな? 記憶がないというよりも、自分じゃない誰かがしたような感覚みたいです』とね」

だからね、とサトルは私を安心させるように微笑んだ。

「藤木様が憑依してた間のことを、まったく忘れてしまったりはしません。松川陽子さんの記憶の片隅に、ちゃんと残ります。それも自分がしたこととしてね。だからきっと、あしたから松川陽子さんも変わっていくはずですよ」

「……大丈夫なのね?」

「大丈夫ですとも」

サトルっていい人だなと初めて思った。
人じゃなくて、死神なんだけど、そんなことはどうでもいいか。


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