あなたが生きるわたしの明日
「最後の希望をお聞きしましょうか」

えーっとたしか……と言いながらサトルはタブレットPCを操作する。

「level7のドームツアー、アリーナ席でしたね」

それねもういいの、そう言って笑ったら、サトルは不思議そうな顔をした。

「いいんですか?」

うん、と私はいさぎよく首を縦に振る。

「他のことにしたいんだけど……いいかな?」

「ええ、もちろん。なにになさいますか?」

level7のアリーナ席はちょっと残念だけど。
それよりもっともっと、大事なことがあるんだ。

「あのね、次に生まれ変わっても私になりたい」

ずっと、自分以外の誰かになりたいと思っていた。
次に生まれる時は、別の人間になりたいって。
私は私の色があんまり好きじゃなくて、だから他の色になりたいって。

でも。

「私はまた私になりたい。お父さんとお母さんのこどもに生まれたい。沙耶のお姉ちゃんになりたい。それが私の願い事」

サトルはゆっくりと微笑んだ。
安心したような顔だった。
その顔を見た時に、私はずっとサトルに心配されていたんだなぁとわかった。

「そのように書き換えておきます」

「お願いします」

かしこまって私はお辞儀する。

「このあと、私はどうなるんだろう? どこに行くんだろう?」

「私はこの先の担当ではないので、わかりかねますが……きっといいところだと思いますよ」

「天国とか?」

「ええ、たぶん」

「本当にいいところなんでしょうね?」

「今まで嫌だと言って天国から戻ってこられた方はひとりもいませんので、いいところなんだと思いますよ」

それもそうね、と私は笑う。

「そろそろお時間です」

サトルが言う。

私は、うなづいて立ち上がった。

不思議と怖さはなかった。
未練は少しだけあるけれど。

でも、私の明日はきっと陽子さんが生きてくれるから。

そして、次に生まれてくるときは。

私のままで。
私の色で。

生きていこうと思う。





end.

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