God bless you!
「今だから言うけどさ」
〝右川亭〟
今日はお休み。
そんな貼り紙があった。だが店の中からは賑やかなテレビの音がしている。こっそり覗くと、右川が独りで居た。頭は普通の毛玉。無理に縛ったゴムも無い。店のカウンター席に座り、テレビを点け、優雅に雑誌のページなんかをめくっているのだ。
俺は意を決して、「おい!」と勢いよく扉を開いた。だが右川はピクリともしない。よく見ると、耳から何やら音楽を聞いているようで、俺はそのフォンを引ったくる。そこで初めて右川は驚いた様子、1度身体をぶるっと震わせた。
俺を見上げて、
「何?いつの間に。怖ぁ」
そしていつものリュックから、ご存じ懐かしのコアラのマーチを取り出して、ぼりぼりと食べ始める。
「店はお休み。アキちゃんはいないの。帰ってくんない?地味に迷惑だから」
「1つ言わせろ。生徒会に嘆願書なんて、どういうつもりだよ」
右川はその場から立ち上がると、仁王立ちポーズで、俺に対峙した。今さらながら、小っせーな。優越感に浸っている場合じゃなかった。次の瞬間、コアラのマーチを箱ごとぶつけられる。ゴミじゃないから良いってもんじゃない。
「何すんだよっ!」
「押し付けられる人間の痛みを知れって事だよ。あんたが生徒会ウザいからって、安西さんに押しつけんな」
「あ、あんざい?」
一瞬誰の事だかピンと来なかったが、話の流れからすると松下ファンの、あの女子だろう。
「あれは別に、押し付けたわけじゃ」
「祥地から双浜に入ると、パシられるかイジられるか、どっちかだって先輩から散々言われたけど本当だね。堀口なんかも、いい被害者だよ」
右川は、いつかの書類の件を持ち出してきた。堀口、あいつも祥地だったのか。どうりで。
「そんなの、たまに頼むぐらいいいだろ」
「は?頼む?」と右川の表情には、ますます険しい色が浮かんだ。
「ボクいつでも手伝います♪って先輩には好い顔してさ、それで他人に押し付けて、あんたは手柄を独り占め。頼まれた堀口は何か1つでも報われてんの?金でも払った?」
右川は睨みつけながら迫ってきた。
「100歩譲って堀口はいいとしても。あんた、ヨネちゃんにはちゃんと謝んなさいよ」
「ヨ、ヨネ?」
「あんたの斜め前の米沢あかりちゃん。あたしは中学ん時から一緒だけどね」
祥地。4組にも居たのか。米沢あかり……頭にぼーっと印象が浮かんだ。巨乳女子。清掃活動に名前を借りた事も思い出した。
「名前だけ貸して~とか調子のいい事言っちゃって。ヨネちゃんは替わってくれるヤツが誰もいなくて結局、掃除に来てたよ。可哀想にさ!」
「く、黒川は?」
「来るわけないでしょ!あんなシラケた怠け者が」
ウケてる場合じゃない。
「そんなの……代わりが探して見つからなかったんなら、仕方ないだろ」
「そうだよ!見つかんないよ」と、右川は目を吊り上げた。「あたしらみたいなマイナー中学出身が一体誰に声を掛けりゃいい訳?同じ中学から来た少ない友だち以外の誰に?それも缶拾いなんていう面倒くさい事をさ」
「米沢あかりって……確か、帰宅部だよな」
ヤバいと思った時には遅かった。右川はますます目を吊り上げた。
「暇なんだからやれって!?押し付けた人間として悪かったとか少しも思わないのっ」
グッと詰まった。暇だと決め付けられる嫌さ加減、俺は経験済みだ。
「お、おまえだって!役目は先生に丸投げで、イノウエにやらせようとしたじゃないか」
「話をスリ替えんな!あんたは胸が痛まないかって、こっちが聞いてんのっ」
本年度第一回目の清掃活動。
1年生はノリ以外、中川以外のヤツらだったと聞いて、ウッと詰まった。
これは痛い。
清掃中、「どこのクラスも中川軍団に押し付けられて!」と、缶をゴミ袋にブチ込みながら怒り狂う右川を、「今日やっとけば次は断る理由になるから」と、米沢あかりは終始なだめて回り、俺を責める言葉は一言も無かったというから……これがヤバかった。痛烈に刺さる。実態のないイノウエが相手では、こんな胸の痛みは無いだろう。右川はトドメを刺すが如く、「卑怯者」と、今度はオレオを投げ付けてきた。
ヨネちゃんと堀口。あいつらが仲間なら、俺のために学校辞めてやるぐらいは……言ってくれるかもしれないな。
「3年かけて反省しろ。てことで、もう帰ってくんない?地味に邪魔だから」
調子に乗るチビを潰すだけの力が、今の俺には無かった。ただ、辺りに散らばったコアラのマーチをじっと見る。
「あんたって、そんなにコアラのマーチが好きなの?どんだけ?」
右川が取り出した縦長・超巨大パーティー・サイズのコアラ箱を見て、またブチ撒けられるかと少なからずギョッとした。
「好きなのおまえだろ。なんだそのビッグサイズ。勝手に人の机に物置いていくなよ」
右川は、いつかのようにニッと笑って俺を指差した。今度はどんな毒を浴びせて来るのかと身構える。
「えづけ♪」
思えばそれに近い状態もあった。
右川はそのビッグサイズの箱を開け、封を破り、コアラをボリボリとやり始める。「勿体ないだろ」とばかりに、俺はそこらへんに弾けたコアラを、つい拾ってしまった。
「あ、それ全部あげる」
念願の(?)コアラが大量に手に入ったという結果だ。屈辱だ。
「まぁ、こういうお菓子は、あたしなりのトモカツだよね」
「トモカツ?」
「お友達活動のこと」
初めまして!の名刺代わりにお菓子を配るのは効果絶大だと、右川は言った。
「マイナー中学から来ちゃったもんだからさ。苦しみを味わってんだよ」
右川はコアラを3個、一気食いした。おまえの何処に苦渋の色があるというのか。偉そうに。
「今だから言うけどさ」と前置きして、急に右川は真面目な顔になる。
「最初の頃、4組でコアラを配ったのはヨネちゃん。あんた限定だよ」
右川は、コアラのマーチは1度も配っていない。俺の机にお菓子を置き始めたのは試合後から。途切れる以前のコアラのマーチは、米沢あかりの所業だと言う。俺の思い込みは、まんざら勘違いでもなかった。いつだったか環境委員の締切りという口実のもと、実は俺を待っていたのか。帰宅部なのに、あんな時間になるまで1人教室に居た女子。週番業務をやってくれた、米沢あかり。
今は、味方を1人失ったような気になる。
「役目を押し付けられて幻滅した、だからコアラを配るのを止めた……そういう事か」
「違うよ」
右川は、足もとに転がったコアラをひょいと拾い上げた。それを俺に手渡す。
「それは、あんたに彼女が居るって分かったからだよ」
罪悪感を拭う程の慰めには及ばないけれど、俺は米沢あかりの名前を胸に刻み、巨乳女子なんて陰口めいた事を言うのは止めようと、心に誓った。
「安西さんはグミ配ってるよ。チャンスがあったら貰えば?あの子、すっげー頭いいんだよ」
「安西さん?」
「だーかーら!あんたが書記を押しつけた子!松下先輩のファン!ちょっとガッキー入ってる!」
二度と忘れないように、「安西さん」と、今一度、声に出してみた。安西さん安西さん……あの、髪の綺麗な可愛い女子。新垣結衣、確かに似てるな。頭いいのか。深く刻もう。
「一応教えとくけど、あそこ西側女子トイレに窓は無いんだよね。知ってた?」
「知る訳ねーだろ」
あの時……右川が窓から逃げたと俺に教えてくれた可愛くて頭のいいガッキー似の安西さんは……右川に味方したのか。俺は、遠い記憶の何処かで軽くショックを覚えた。
とにかく新しい名前がどんどん出てきて、頭が追い付かない。これはナカチュウ出身には有り得ない事態だった。他所から来たヤツらの嘆きが、急に実感となって襲ってくる。改めて考えると、朝比奈は偉いな。
気が付けば、マイナー出身の右川は伸び伸びとトモカツに励み、裏切られもせず、右川の会を通じてどんどん周りに浸透。多数派で裕々のはずの俺は、生徒会に祭り上げられてコキ使われ、部では先輩から恥さらしの如く扱われて、笑われている。その違いと言えば、俺には、ここぞ!という所で身を挺して庇ってくれる味方が居ないという事なのか。
「みんな、面白そうじゃーんって感じで、サクッと書いてくれたよ」
そうやって、あっさり署名されてしまう程だ。どっと疲れた。スマホも壊れて朝比奈とも繋がらず。お腹も大きく鳴っている。こういうときに限ってこの定食屋はお休み。目の前には、右川カズミ。
運の全てに見放されているとしか思えない。
「ま、生徒会なんてさ、嫌んなったら、辞めちゃえばいいんだし」
「何だその言い草」
いくらなんでもカチンときた。
「推薦したのはおまえだからな。生徒会でくたばったら、おまえのせいだ。責任とれよ」
「あんたがくたばるのに、あたし関係ないじゃん。悪党の運命だよ」
「悪党はおまえだ。おまえがくたばれ」
「&%$♪」
やだよ♪と聞こえた気がした。ケケケ♪かもしれない。とうとう幻の声まで聞こえ始めたか。右川の会。入会も近いのか。
その時、チン!と何かが音を立てた。弾かれるように右川は立ち上がると、レンジから何やら取り出して来る。やっぱりというか……ギョウザだった。
右川は独りでパクパク食べ始める。止せというのに、俺の腹が大きく主張する。
1分も掛からないうちに食べ終わり、その後、右川は時間を持て余し始めたのか、仕切りに頭を気にして後れ毛を探り始めた。
それを、俺はずっと横目で追う。
今日はお休み。
そんな貼り紙があった。だが店の中からは賑やかなテレビの音がしている。こっそり覗くと、右川が独りで居た。頭は普通の毛玉。無理に縛ったゴムも無い。店のカウンター席に座り、テレビを点け、優雅に雑誌のページなんかをめくっているのだ。
俺は意を決して、「おい!」と勢いよく扉を開いた。だが右川はピクリともしない。よく見ると、耳から何やら音楽を聞いているようで、俺はそのフォンを引ったくる。そこで初めて右川は驚いた様子、1度身体をぶるっと震わせた。
俺を見上げて、
「何?いつの間に。怖ぁ」
そしていつものリュックから、ご存じ懐かしのコアラのマーチを取り出して、ぼりぼりと食べ始める。
「店はお休み。アキちゃんはいないの。帰ってくんない?地味に迷惑だから」
「1つ言わせろ。生徒会に嘆願書なんて、どういうつもりだよ」
右川はその場から立ち上がると、仁王立ちポーズで、俺に対峙した。今さらながら、小っせーな。優越感に浸っている場合じゃなかった。次の瞬間、コアラのマーチを箱ごとぶつけられる。ゴミじゃないから良いってもんじゃない。
「何すんだよっ!」
「押し付けられる人間の痛みを知れって事だよ。あんたが生徒会ウザいからって、安西さんに押しつけんな」
「あ、あんざい?」
一瞬誰の事だかピンと来なかったが、話の流れからすると松下ファンの、あの女子だろう。
「あれは別に、押し付けたわけじゃ」
「祥地から双浜に入ると、パシられるかイジられるか、どっちかだって先輩から散々言われたけど本当だね。堀口なんかも、いい被害者だよ」
右川は、いつかの書類の件を持ち出してきた。堀口、あいつも祥地だったのか。どうりで。
「そんなの、たまに頼むぐらいいいだろ」
「は?頼む?」と右川の表情には、ますます険しい色が浮かんだ。
「ボクいつでも手伝います♪って先輩には好い顔してさ、それで他人に押し付けて、あんたは手柄を独り占め。頼まれた堀口は何か1つでも報われてんの?金でも払った?」
右川は睨みつけながら迫ってきた。
「100歩譲って堀口はいいとしても。あんた、ヨネちゃんにはちゃんと謝んなさいよ」
「ヨ、ヨネ?」
「あんたの斜め前の米沢あかりちゃん。あたしは中学ん時から一緒だけどね」
祥地。4組にも居たのか。米沢あかり……頭にぼーっと印象が浮かんだ。巨乳女子。清掃活動に名前を借りた事も思い出した。
「名前だけ貸して~とか調子のいい事言っちゃって。ヨネちゃんは替わってくれるヤツが誰もいなくて結局、掃除に来てたよ。可哀想にさ!」
「く、黒川は?」
「来るわけないでしょ!あんなシラケた怠け者が」
ウケてる場合じゃない。
「そんなの……代わりが探して見つからなかったんなら、仕方ないだろ」
「そうだよ!見つかんないよ」と、右川は目を吊り上げた。「あたしらみたいなマイナー中学出身が一体誰に声を掛けりゃいい訳?同じ中学から来た少ない友だち以外の誰に?それも缶拾いなんていう面倒くさい事をさ」
「米沢あかりって……確か、帰宅部だよな」
ヤバいと思った時には遅かった。右川はますます目を吊り上げた。
「暇なんだからやれって!?押し付けた人間として悪かったとか少しも思わないのっ」
グッと詰まった。暇だと決め付けられる嫌さ加減、俺は経験済みだ。
「お、おまえだって!役目は先生に丸投げで、イノウエにやらせようとしたじゃないか」
「話をスリ替えんな!あんたは胸が痛まないかって、こっちが聞いてんのっ」
本年度第一回目の清掃活動。
1年生はノリ以外、中川以外のヤツらだったと聞いて、ウッと詰まった。
これは痛い。
清掃中、「どこのクラスも中川軍団に押し付けられて!」と、缶をゴミ袋にブチ込みながら怒り狂う右川を、「今日やっとけば次は断る理由になるから」と、米沢あかりは終始なだめて回り、俺を責める言葉は一言も無かったというから……これがヤバかった。痛烈に刺さる。実態のないイノウエが相手では、こんな胸の痛みは無いだろう。右川はトドメを刺すが如く、「卑怯者」と、今度はオレオを投げ付けてきた。
ヨネちゃんと堀口。あいつらが仲間なら、俺のために学校辞めてやるぐらいは……言ってくれるかもしれないな。
「3年かけて反省しろ。てことで、もう帰ってくんない?地味に邪魔だから」
調子に乗るチビを潰すだけの力が、今の俺には無かった。ただ、辺りに散らばったコアラのマーチをじっと見る。
「あんたって、そんなにコアラのマーチが好きなの?どんだけ?」
右川が取り出した縦長・超巨大パーティー・サイズのコアラ箱を見て、またブチ撒けられるかと少なからずギョッとした。
「好きなのおまえだろ。なんだそのビッグサイズ。勝手に人の机に物置いていくなよ」
右川は、いつかのようにニッと笑って俺を指差した。今度はどんな毒を浴びせて来るのかと身構える。
「えづけ♪」
思えばそれに近い状態もあった。
右川はそのビッグサイズの箱を開け、封を破り、コアラをボリボリとやり始める。「勿体ないだろ」とばかりに、俺はそこらへんに弾けたコアラを、つい拾ってしまった。
「あ、それ全部あげる」
念願の(?)コアラが大量に手に入ったという結果だ。屈辱だ。
「まぁ、こういうお菓子は、あたしなりのトモカツだよね」
「トモカツ?」
「お友達活動のこと」
初めまして!の名刺代わりにお菓子を配るのは効果絶大だと、右川は言った。
「マイナー中学から来ちゃったもんだからさ。苦しみを味わってんだよ」
右川はコアラを3個、一気食いした。おまえの何処に苦渋の色があるというのか。偉そうに。
「今だから言うけどさ」と前置きして、急に右川は真面目な顔になる。
「最初の頃、4組でコアラを配ったのはヨネちゃん。あんた限定だよ」
右川は、コアラのマーチは1度も配っていない。俺の机にお菓子を置き始めたのは試合後から。途切れる以前のコアラのマーチは、米沢あかりの所業だと言う。俺の思い込みは、まんざら勘違いでもなかった。いつだったか環境委員の締切りという口実のもと、実は俺を待っていたのか。帰宅部なのに、あんな時間になるまで1人教室に居た女子。週番業務をやってくれた、米沢あかり。
今は、味方を1人失ったような気になる。
「役目を押し付けられて幻滅した、だからコアラを配るのを止めた……そういう事か」
「違うよ」
右川は、足もとに転がったコアラをひょいと拾い上げた。それを俺に手渡す。
「それは、あんたに彼女が居るって分かったからだよ」
罪悪感を拭う程の慰めには及ばないけれど、俺は米沢あかりの名前を胸に刻み、巨乳女子なんて陰口めいた事を言うのは止めようと、心に誓った。
「安西さんはグミ配ってるよ。チャンスがあったら貰えば?あの子、すっげー頭いいんだよ」
「安西さん?」
「だーかーら!あんたが書記を押しつけた子!松下先輩のファン!ちょっとガッキー入ってる!」
二度と忘れないように、「安西さん」と、今一度、声に出してみた。安西さん安西さん……あの、髪の綺麗な可愛い女子。新垣結衣、確かに似てるな。頭いいのか。深く刻もう。
「一応教えとくけど、あそこ西側女子トイレに窓は無いんだよね。知ってた?」
「知る訳ねーだろ」
あの時……右川が窓から逃げたと俺に教えてくれた可愛くて頭のいいガッキー似の安西さんは……右川に味方したのか。俺は、遠い記憶の何処かで軽くショックを覚えた。
とにかく新しい名前がどんどん出てきて、頭が追い付かない。これはナカチュウ出身には有り得ない事態だった。他所から来たヤツらの嘆きが、急に実感となって襲ってくる。改めて考えると、朝比奈は偉いな。
気が付けば、マイナー出身の右川は伸び伸びとトモカツに励み、裏切られもせず、右川の会を通じてどんどん周りに浸透。多数派で裕々のはずの俺は、生徒会に祭り上げられてコキ使われ、部では先輩から恥さらしの如く扱われて、笑われている。その違いと言えば、俺には、ここぞ!という所で身を挺して庇ってくれる味方が居ないという事なのか。
「みんな、面白そうじゃーんって感じで、サクッと書いてくれたよ」
そうやって、あっさり署名されてしまう程だ。どっと疲れた。スマホも壊れて朝比奈とも繋がらず。お腹も大きく鳴っている。こういうときに限ってこの定食屋はお休み。目の前には、右川カズミ。
運の全てに見放されているとしか思えない。
「ま、生徒会なんてさ、嫌んなったら、辞めちゃえばいいんだし」
「何だその言い草」
いくらなんでもカチンときた。
「推薦したのはおまえだからな。生徒会でくたばったら、おまえのせいだ。責任とれよ」
「あんたがくたばるのに、あたし関係ないじゃん。悪党の運命だよ」
「悪党はおまえだ。おまえがくたばれ」
「&%$♪」
やだよ♪と聞こえた気がした。ケケケ♪かもしれない。とうとう幻の声まで聞こえ始めたか。右川の会。入会も近いのか。
その時、チン!と何かが音を立てた。弾かれるように右川は立ち上がると、レンジから何やら取り出して来る。やっぱりというか……ギョウザだった。
右川は独りでパクパク食べ始める。止せというのに、俺の腹が大きく主張する。
1分も掛からないうちに食べ終わり、その後、右川は時間を持て余し始めたのか、仕切りに頭を気にして後れ毛を探り始めた。
それを、俺はずっと横目で追う。