God bless you!
「誰が書記だよ。今度言ったら燃やすぞ」
……実の所、右川カズミとは、どういうヤツなんだろう。
周りには散々知られている右川カズミは、未だ自分には一切分からないままだ。
やっぱり4組には頻繁に来ているというのだが、フッと振り返った瞬間にスッと消えるように居なくなるという、まるで幽霊のようなヤツに思える。まだ見ぬ女子を相手に随分妄想が盛り上がっていると俺の様子を誤解した黒川が、「チビに捉われてんじゃねーよ。てめーのオンナに言い付けるぞ」と、容赦なくド突いてきた。それが免罪符の役割を果たしたらしい。
「あ、やっぱそーなんだ。実は女子が見掛けたっていうのを聞いたんだけどさ」
ノリが俺以上に安堵しているのを見て、急に照れ臭くなる。
「だったら何で言ってくれないかな」
お隣5組。〝朝比奈ユリコ〟という女子が、入学早々にできた俺の彼女だった。ノリと工藤に体中をやみくもに叩かれて、「で?誰だっけ?そのオンナ」と黒川には険しい顔で迫られた。他人の幸せを素直に喜べない人間の典型である。
「だから、5組の朝比奈」
「全然知らねーワ。で、そいつ可愛いの?巨乳?どういう系?」
「言う気ねーワ。むこう行け」
ゆる~く険悪な雰囲気にはなる。
「なんだぁ、それでお昼は一人でどっか行っちゃってたのか。独りで淋しかったなぁ、もう」と、ノリは無邪気に心情を吐露してくれた。
「変だと思わなかった?」
「てゆうか、沢村は昼休みも生徒会の仕事をしてるんだと思ってた」
正直、工藤のこの発言には肩からズリ落ちた。
「だって中学ん時からそうじゃん。昼休みも放課後も、生徒会にスッ飛んで」
今度は書記か。いつまでたっても忙しいヤツだなぁ……なんて勝手に遠い目をしてくれる。
「誰が書記だよ。今度言ったら燃やすぞ」ニブいのも、いい加減にしろ。
彼女の朝比奈ユリコは、ナカチュウとは別の所から来た女子だった。だからコイツらがよく知らないのも無理はない。ノリに、俺達の事を言いふらしてくれ~とは少々酷かもしれないが、
「沢村は女子バレーの藤谷とデキてんじゃなかったっけ?てことは、藤谷はもう元カノでいいの?」
工藤の場合に限って言えば、頼むから、それは言いふらす前に確認してくれ!である。永田のように、居ない居ないと連呼されるのも頂けないが、現状、有りもしない元カノを引き合いに出されるのはもっと頂けない。彼女に誤解されたらどうすんだ。
「ところで、さっきの堀口さ、4組の女子に似てない?ほら沢村の斜め前で」
工藤がヘラヘラと笑いながらボールを投げて寄越した。思わず吹き出す。そこは珍しく鋭いと感じた。俺の斜め前の女子は、短い髪に、全体的にぽっちゃりした感じの子である。名前は……あれ?何だっけ?しばらく頭の中を検索してみたけれども、どうしても思い出せなかった。何となく種類も違うし、席は近くとも、あんまり話す事が無いから。
「まぁ、似てるかな」と俺がボールをノリに投げると、「背丈とか?」と、ノリらしく遠慮がちに加勢した。ボールを受け取ってはみたものの、ここから黒川に振って女子の陰口にも似た話を続けるべきかどうか。
真面目なノリらしく悩んで悩んで、しばらくはボールが宙に飛ぶ。
「どっちも巨乳だな」と、黒川は強引にそれを奪った。
かと思うと、「そういや右川のヤツ。昨日、風紀の3年、爆乳女に捕まってたな」
右川の会が唐突に、またぞろ始まる。そこから俺をスッ飛ばして工藤にボールが渡った。
「原田に捕まってるのは、よく見るよな?」
「担任だからね」
と、工藤からボールを受け取ったノリは、「右川さん、よく原田先生に呼び出されてる。足首グニって痛いから帰りますぅ~って、走って逃げてるし。逃げ足めっちゃ早いんだよ」と笑った。
黒川曰く、右川カズミは学校の風紀を乱す問題児か。
ノリ曰く、冗談の通じる愉快な女子なのか。
元から右川を知らない自分にとって、この一連のやりとりには想像が追いつかない。
黒川は一段と怪しい笑みを浮かべる。
「原田のヤツ、夜のおかずに狙ってんじゃないか」
「巨人の捕食かぁ」と工藤が遠い目をする。
「そっちじゃねーだろ」と工藤に突っ込んで軌道修正するのが、どうやら俺の役割のようだ。
ノリだけがずっと笑っている。
黒川は、ノリの耳元で「腹減ったぞぉ~右川ぁ。服を脱げぇ。溜まってんぞぉ。はぁはぁ」と繰り返した。練習中、先輩に怒られても、ノリは泣き笑いが止まらない。「黒川のせいで、先生と右川さんをまともに見れないよ」と、ノリは涙目で訴えた。
真面目なノリをツボにはめる。黒川には、それだけの破壊力がある。
意外と侮れない。
周りには散々知られている右川カズミは、未だ自分には一切分からないままだ。
やっぱり4組には頻繁に来ているというのだが、フッと振り返った瞬間にスッと消えるように居なくなるという、まるで幽霊のようなヤツに思える。まだ見ぬ女子を相手に随分妄想が盛り上がっていると俺の様子を誤解した黒川が、「チビに捉われてんじゃねーよ。てめーのオンナに言い付けるぞ」と、容赦なくド突いてきた。それが免罪符の役割を果たしたらしい。
「あ、やっぱそーなんだ。実は女子が見掛けたっていうのを聞いたんだけどさ」
ノリが俺以上に安堵しているのを見て、急に照れ臭くなる。
「だったら何で言ってくれないかな」
お隣5組。〝朝比奈ユリコ〟という女子が、入学早々にできた俺の彼女だった。ノリと工藤に体中をやみくもに叩かれて、「で?誰だっけ?そのオンナ」と黒川には険しい顔で迫られた。他人の幸せを素直に喜べない人間の典型である。
「だから、5組の朝比奈」
「全然知らねーワ。で、そいつ可愛いの?巨乳?どういう系?」
「言う気ねーワ。むこう行け」
ゆる~く険悪な雰囲気にはなる。
「なんだぁ、それでお昼は一人でどっか行っちゃってたのか。独りで淋しかったなぁ、もう」と、ノリは無邪気に心情を吐露してくれた。
「変だと思わなかった?」
「てゆうか、沢村は昼休みも生徒会の仕事をしてるんだと思ってた」
正直、工藤のこの発言には肩からズリ落ちた。
「だって中学ん時からそうじゃん。昼休みも放課後も、生徒会にスッ飛んで」
今度は書記か。いつまでたっても忙しいヤツだなぁ……なんて勝手に遠い目をしてくれる。
「誰が書記だよ。今度言ったら燃やすぞ」ニブいのも、いい加減にしろ。
彼女の朝比奈ユリコは、ナカチュウとは別の所から来た女子だった。だからコイツらがよく知らないのも無理はない。ノリに、俺達の事を言いふらしてくれ~とは少々酷かもしれないが、
「沢村は女子バレーの藤谷とデキてんじゃなかったっけ?てことは、藤谷はもう元カノでいいの?」
工藤の場合に限って言えば、頼むから、それは言いふらす前に確認してくれ!である。永田のように、居ない居ないと連呼されるのも頂けないが、現状、有りもしない元カノを引き合いに出されるのはもっと頂けない。彼女に誤解されたらどうすんだ。
「ところで、さっきの堀口さ、4組の女子に似てない?ほら沢村の斜め前で」
工藤がヘラヘラと笑いながらボールを投げて寄越した。思わず吹き出す。そこは珍しく鋭いと感じた。俺の斜め前の女子は、短い髪に、全体的にぽっちゃりした感じの子である。名前は……あれ?何だっけ?しばらく頭の中を検索してみたけれども、どうしても思い出せなかった。何となく種類も違うし、席は近くとも、あんまり話す事が無いから。
「まぁ、似てるかな」と俺がボールをノリに投げると、「背丈とか?」と、ノリらしく遠慮がちに加勢した。ボールを受け取ってはみたものの、ここから黒川に振って女子の陰口にも似た話を続けるべきかどうか。
真面目なノリらしく悩んで悩んで、しばらくはボールが宙に飛ぶ。
「どっちも巨乳だな」と、黒川は強引にそれを奪った。
かと思うと、「そういや右川のヤツ。昨日、風紀の3年、爆乳女に捕まってたな」
右川の会が唐突に、またぞろ始まる。そこから俺をスッ飛ばして工藤にボールが渡った。
「原田に捕まってるのは、よく見るよな?」
「担任だからね」
と、工藤からボールを受け取ったノリは、「右川さん、よく原田先生に呼び出されてる。足首グニって痛いから帰りますぅ~って、走って逃げてるし。逃げ足めっちゃ早いんだよ」と笑った。
黒川曰く、右川カズミは学校の風紀を乱す問題児か。
ノリ曰く、冗談の通じる愉快な女子なのか。
元から右川を知らない自分にとって、この一連のやりとりには想像が追いつかない。
黒川は一段と怪しい笑みを浮かべる。
「原田のヤツ、夜のおかずに狙ってんじゃないか」
「巨人の捕食かぁ」と工藤が遠い目をする。
「そっちじゃねーだろ」と工藤に突っ込んで軌道修正するのが、どうやら俺の役割のようだ。
ノリだけがずっと笑っている。
黒川は、ノリの耳元で「腹減ったぞぉ~右川ぁ。服を脱げぇ。溜まってんぞぉ。はぁはぁ」と繰り返した。練習中、先輩に怒られても、ノリは泣き笑いが止まらない。「黒川のせいで、先生と右川さんをまともに見れないよ」と、ノリは涙目で訴えた。
真面目なノリをツボにはめる。黒川には、それだけの破壊力がある。
意外と侮れない。