春の私と秋の君。
桜の花も散り始め、暖かい風が吹く頃、私は秋人に出会った。

帰りたくない家に向かおうと校門に向かって歩いていた時、それは起きた。

とろい私には全く気づけなかった。まさか左からボールが飛んできてるなんて。私は思いっきり頭にボールを受けた。一瞬フラリと体を右に傾かせて、すぐさま左に倒れ込んだ。


そして私は夢を見た。なんどもなんどもお母さんと知らない男に殴られて、私が謝り続ける夢。これは夢じゃなくて、現実でもおこっていた。なんどもなんども、夢の中ですら現れて、私を殴る母と男。どうすれば解放されるのだろう。

嫌だ、嫌だ。殴られたくない。痛い、痛いよ。やめて。やめて…。

「飯島(いいじま)!!!」

「…?!」

私を呼ぶ声がする。私はゆっくり目を開けた。そしてすぐに気付いた。ここが保健室であるということと、頬を伝う涙に、心配そうにこちらを見る視線に。

「あ…はは…心配かけてごめん。大丈夫。そんな痛くないから」

「……ボールの痛みより、心のが痛いんじゃないの?」

何も言えない。どうしよう。はやく何か言わなきゃ。じゃないとまた、泣いてしまう。

「え〜?はは、そんな訳ないじゃん」

「…辛かったら言えよ、なんで1人で抱え込もうとすんの?だから全部悪い方に進むんだよ」

あまりにも心に響いてしまった。だって、その通りだったから。でも、あんたなんかに何がわかる。

「うるさいっ!あんたなんかに何がわかるんだよ!!!出てって!!」

私の大声に保健の先生が慌ててカーテンの中に入ってきた。そして彼にそっと出ていくように促す。なんて最低な自分。なんてクソみたいな自分。

「先生、もう大丈夫ですから、帰らして下さい…親が…心配するんで…」

私の力いっぱいに出したかすれたような声。言いたくなかった。親が心配するなんて。してるわけない。本当は帰ってきてなんて欲しくない、きっとそう思ってる。
帰りたくない。でも帰らなきゃ。私が殴られないとお家が壊れちゃうから。

「…そう。じゃあお家に一応電話を」

「やめてください!!いいんですもう!大丈夫ですからっ。帰りますね、失礼しました!」

電話なんてかけられたら大変。いつもより沢山殴られてしまう。大丈夫、ボールが当たったところも幸い見えにくいし腫れてないし、ちょっとふらつくくらい。どってことない。

私はベッドから飛び出して凄いスピードで保健室から出た。先生に一言も発する時間を与えないよう、とにかく急いだ。
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