春の私と秋の君。
気づけば朝が来ていた。お母さんはすっかり
「殴り」疲れて寝入っている。まだアイツがいなかっただけ良かったな。ああ、学校だ。早くこのアザを化粧で隠さないと。今日はファンデーション濃いめにしないと隠しきれないな。
あ、そういえば数学課題あったな。もういいや、今からじゃむりそうだし。

「…行ってきます」

声にならないような虫の声でボソリと呟いて、誰に聞かれてるわけでもなく、返事してもらえるわけでもなく、家を出た。心細さなど感じなかった。

「…よお、清水」

「…え、榎本?なんでここが分かって…」

家を出るとそこには彼がいた。「友達」になりたがる榎本 秋人(えのもと あきと)。
私には理解不能だった。いや、これは誰だって怖いよね、教えたわけでもないのに家の前にいるっていうのは。

「いや、昨日やっぱちょっと気になって…家の前まで追っかけてきたんだけど、さすがにすぐ帰ってさ…」

「…すぐ帰ったんだよね?」

あの音、あの声を聞かれちゃまずい。どうか知らないでください。どうかバレないで。

「うん」

「そっか…で、なに?」

「いや、特になんもねえんだけど…一緒に学校行かね?」

ここまで来てるのに断っても意味無いだろうな。

「いいよ別に」

私は下を向いて榎本の斜め後ろに立った。友達といる時も、お母さんといる時も、どんな時だって斜め後ろに立てば少し安心するから。

「いいから隣来いよ」

榎本の声にびくんと体が反応してしまった。怖い。とても低い声。反射的に立ち止まってしまう。

「…清水、隣来いって」

今度は優しい目で私見て微笑んでる。あったかい笑い方。なぜだかホッとする。

「よし、いい子だ」

私はいつの間にか彼の隣にいた。そんな私の頭を榎本がくしゃくしゃっと撫でる。あーあ、折角今日調子良かったのに、前髪。

「…ぅっさぃ…」

「サイ??」

ん?なんだ急に??

「へ?」

「いや、今サイって言ったから」

「ちがっ…うっさいだよ!」

どんな聞き間違えだよ!だいたい急にサイなんて言う人いないでしょ。バッカじゃないの、榎本。意味わかんない!
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