S級イケメン王子に、甘々に溺愛されています。


「んじゃ、俺も先行ってるぞ。ローランドに呼ばれてるから」



譜面を手に、戸澤くんが立ち上がる。


「戸澤。ホントにピアノ弾くつもり?」


「は?当たり前だろ?当日ドタキャンなんか出来るわけねーって話だ。お姫様のめでたい発表の場に、泥塗ることになる」



戸澤くんがピアノを弾く時、どんな気持ちでその音を奏でるのかな。


切なくて、私だったら泣いてしまうかもしれない。



「……ふぅん。まっ。あんたが決めたんなら、いーんじゃないの?」


「そのつもりだって」


「てか、あんたっていつも同じ曲弾いてるよね?お気に入り?」


「いーや?ただ……指が痛くなるまで必死こいて練習した曲なだけ」


「発表会で弾く予定だったとか?」


「……さぁ?」



戸澤くんがはぐらかしていたけど、そういえば私も火神さんも、一度もタイトルを教えてもらうことはなかったな。



───“なんで俺、あの時……もう二度とピアノが弾けなくたっていいから、お前といたいって言えなかったんだろうな……”



不意に思い出した戸澤くんのあの言葉は、とても大切に撫子様を思っているからこそで。



本当に、このままでいいわけがない……。

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