夢の言葉と失われた追想【夢の言葉続編④】
(5)
父さんが完全に我が家を去って暫くして……。
俺は風の便りに、父さんが名家の娘と結婚した事を知った。
母さんは、その事を知っているのか知らないのか分からない。
最後の夜に、父さんと母さんがどんな時間を過ごしたのかも……知らない。
俺は、何とか毎日を生きていた。
家事と、勉強と、読書と……。
変わらないような生活の中で、唯一変わった事は……。
「最近この辺りで、金スリや万引きが増えたそうよ!」
「怖いわねぇ〜!」
……。
俺は、生きていく為の手段を選ばなかった。
悪い事だと知りながら、近隣の町へ行っては盗みを繰り返す日々……。
家から出られない母さんの代わりに働こうにも、子供の俺を…。しかも、こんな容姿の俺をまともに扱ってくれる大人なんていなかった。
世の中の人がみんな、父さんのような人だったら良かったのに…。
でも、世の中は甘くない。
だから、自分の力で出来る事をして生きていくしかなかった。