夢の言葉と失われた追想【夢の言葉続編④】
【ヴァロン6歳の12月/自宅】

「……母さん、ただいま」

「……」

”おかえり”なんて言葉は、返ってこないって分かってても言ってしまう。

相変わらずほとんど寝室のベッドから起き上がって来ない母さんを扉の隙間からチラッと見ると、俺は今日の収穫を食卓のテーブルに置いて手を洗うと食事の準備を始めた。

毎日の家事のおかげですっかり手際も良くなった俺は、食材さえ揃えばそれなりの料理が出来るようになっていた。

勉強も同世代の子供には負けない自信もあったし、一度間違えたミスはもう二度としないように努力した。


父さんがいなくなった生活の中で、俺はきっと急激な早さで出来る事も増えて成長していた。

けれど……。


「……早く、大人になりたいな」

鏡に映る自分を見る度に、そう思った。
元々食も細くて、まともに食事が出来ない日もあったから……。栄養状態が偏っていたこの頃の俺は、チビで貧弱だった。
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