【完】DROP(ドロップ)
-drop story-圭矢
カシャカシャときられるシャッターの音。
眩暈を起こしそうなくらいの光。
ゆっくり瞬きをするのように流れる風景。
今の俺は、まるで夢でも見ている時みたいに、全てが他人事みたいだ。
心と体が別々の場所にあって、それを必死に合わせようともがいている。
「お疲れ様でしたー」
元気のいい声に“芸能人 KEI”は笑顔を見せる。
そして、スタジオを出ようとした俺の腕に、相手役の女優の手が絡まった。
「ねぇー圭矢君♪ 相談があってぇー」
無駄に開いた衣装から覗く胸を押し付けてきて、上目使い。
撮影の為に塗ったグロスは、異様な輝きをみせる。
これ、ちょっと塗り過ぎ。
撮影だから仕方ないんだろうけど。
怒らせない様に、プライドを気付けない様に、適当に。
だけど慎重に、女優を交わしてスタジオを出ようとした時だった。
スタッフが大量のグロスを抱え
『これどうしますー?』
なんて聞いているのが、聞こえた。
そのスタッフに声をかけると、快く差し出されたグロス。
その中から選んだのはCMで使ったベージュじゃない、薄いピンク。
この色が1番、雫っぽいって思ったから。