【完】DROP(ドロップ)
「会場満員だってさ♪」
楽屋の鏡越しに、嬉しそうな陸さんの笑顔が映る。
「おっ、まじで?」
喜ぶメンバーに、俺も笑顔を見せた。
「実は今日、彼女来てるんだよねー」
ニヤッと笑いながら言った陸さんに、翔と直君が近寄った。
「だから陸、気合入ってんのー?」
「さっきから会場気にし過ぎだってー」
盛り上がるメンバーの輪の中。
それを見ながら思った。
俺は彼女……雫を呼べないな。
気になって歌えないよ。
だから、雫には絶対来ちゃ駄目って言ってあるしね。
陸さんはすごいな。
スタンバイの声が掛かり、ステージに立った俺達。
1曲目が終わり、会場を見渡した時。
見間違いかと思った。
2階席の1番前にいる女の子は……雫?
何度も何度も見直す俺は、2曲目の途中を間違ってしまったらしい。
でもメンバーから送られる視線も気にならないくらい。
……動揺してしまったんだ。