【完】DROP(ドロップ)
曇ってた空は、どんよりとしたままで。
いっそうの事、雨でも降ってくれれば今のあたしにピッタリなのに。
圭矢のドラマみたいに、女優さんならここで雨に濡れてるよね。
それが涙をそそるんだ。
でも、これが現実。
あたしは女優なんかじゃない。
誰の涙もそそらないし、雨だって降らない。
このまま原付を走らせてバイトへと向かう一般人。
失恋。
よくある事じゃない。
ただ、二股されただけだよ。
夏休み前に、友達も二股されたって言ってたじゃん。
ほらね、身近に仲間がいたでしょ?
だから珍しい事なんかじゃない。
その現場を見たのに、彼氏の部屋に乗り込めないあたしが捨てられる方だっただけの話。
彼氏に本命がいたのを……テレビで知ったのが珍しいだけ。
唇を噛み締めて、瞬きをして。
全ては風のせいで。
視界が歪むのは、原付を飛ばすから風がきついから。
あんなに綺麗な人なんだから負けて仕方ないよね。
あれに勝とうって方が無謀なんだよね。
わかってんのに、何で涙がながれるかなぁ。