【完】DROP(ドロップ)
「おい」
更衣室から着替えて出て来たあたしを呼ぶ声。
振り返ると、椅子に座っていた巧が立ち上がってこっちに歩き出していた。
「お前も行くんだってな」
あたしの目の前で立ち止まった。
あ、もしかして待っててくれた?
『一緒においでね!』
菜摘が、そう言ったけど中々、巧に一緒に行こうって声をかけにくくて。
そのままバイトが終わって今に至るってやつになってしまった。
「あ、うん」
「なら、声かけろよなぁ。さっき松本に場所聞いたから」
「あ、ごめん」
「別に謝らなくてもいいけど」
「……うん」
歩き出した巧の後を俯いて歩く。
何が気まずいって聞かれるとわからないんだけど。
何か気まずい。
あー。
あたしって駄目だなぁ、って自己嫌悪。
また、巧に気付かれるのが恐いんだ。
巧は鋭いから。
あたしの心の中が読まれちゃうんじゃないかって。