【完】DROP(ドロップ)



「そっ、そういう意味じゃないよっ! ただ、鼻を擦りたかっただけで…」

「あぁ、そっか」



切なそうな顔を見せた後、掴んだ手が緩くなったのがわかった。

あたしも巧も、頷きながら切ない顔で笑う。



巧の掴んでいた手がもう離れる、そんな時だった。



横から伸びてきた、もう1つの手に、強く。きつく掴まれたんだ。



驚いたあたしは、その手を見た。

多分、巧も驚いてたと思う。



見た事のある靴。

見た事のあるデニム。

見た事のあるパーカー。

見た事のあるネック。



下から上までゆっくりと顔を上げていく、あたしの心拍はどんどんとあがる。



見た事のある……顔。



「け……いし?」



ポカーンと口を開けてマヌケな顔をしたあたしが小さく呟いた一言。



「何してんの?」



そう言いながら、真っ直ぐにあたしだけを見つめる瞳。



久しぶりに見た


“本物の圭矢”


の顔がどんどん歪んでいく。




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