【完】DROP(ドロップ)
「何って、雫が泣きそうな顔ばっかしてる理由? だって最近の雫…」
ニヤッと笑った巧は、挑発する様な言い方をする。
「巧っ!」
「へぇ。仲良いんだね」
それを止めようとしただけ。
それ以上、言うのを止めようとしただけなのに。
圭矢があたしを見下ろして、哀しそうな目をしたんだ。
「や、じゃなくて…」
あたしの腕と肩を掴んだ手が緩まっていく。
何でここに居たのか、何でここに来たのか、何で巧まで巻き込んで話してるのか。
そんなのよりも。
この手が離れる事が嫌で、嫌で、嫌で。
ここで、この手を離したら、もう本当に終わってしまうんじゃないかって思った。
想像した別れの電話よりも。
淡い期待の“また”って言葉よりも。
この手が離れる事が恐かったんだ。
緩くなって離れる手を握ろうと、両手をあげた、その時。
あたしは、圭矢の香りいっぱいに包まれた。
「え……」
「駄目。雫だけは駄目」