【完】DROP(ドロップ)
気付けば、圭矢があたしの肩に顔を埋めて、あたしを力いっぱい抱きしめていた。
瞬きを何回も何回もするあたしの瞳からは、止まる事の知らない涙が零れて。
「圭矢?」
震える声で、圭矢の名前を何度も何度も呼んで。
震える手で、圭矢の背中に腕を回して。
小さな靴の音が聞こえて、視線を向けると巧が背中を向けて歩き出していた。
チラッと振り返った巧は、ニッと笑い、また前を向くと小さく手を振った気がしたんだ。
その後姿が切なくて、ギュッと力いっぱい圭矢を抱きしめた。
ごめん、巧。
ごめんね?
謝らなきゃ駄目なのに、あたし今この腕を離したくないんだ。
勝手で、ごめんね……。
今離したら圭矢がいなくなる気がするんだ。
ねぇ、圭矢。
あたし振られるんじゃないの?
あたし、まだ隣にいていいの?
聞きたかった言葉は、涙にかき消されて何も言えなくて。
だけど、温もりから
“大丈夫だよ”
って聞こえた気がしたんだ。
あれだけ不安で、辛くて、苦しかった事が、スーっと心の中から消えてしまう。
恋って不思議だね。
ただ抱きしめられただけで、心が温かくなるんだもん。
胸に詰まった何かが、言葉にしなくても消えるんだもん。
それ以上に、嬉しくて優しくて、幸せな気持ちが満ち溢れてくるんだよ。