【完】DROP(ドロップ)
どれくらい抱き合ってたんだろう。
あたしの両肩を両手で押した圭矢は、
『よかったの?』
なんて下を向いたまま聞いてきた。
巧を追いかけなくてよかったの? そういう意味なのかなぁ?
答えに困ったあたしが黙っていると、チラッとあげた顔が真っ赤で。
だから聞かないまま頷いたんだ。
あたしの手を握り、歩き出した圭矢について行くと1台の見た事もない自転車。
キョトンとしたあたしに、
『乗って』
そう言うと、自転車を勢いよく漕ぎ出した。
何から話せばいいのかもわからないけど。
圭矢が自転車で、あたしのバイト先に来て。
バイトが終わるのを待っててくれて。
今、こうして自転車で一緒に帰れるのが夢みたいで。
夢なら覚めないで欲しい。
このまま、もう少しだけでいいから。
普通の恋人同士みたいな事をさせて欲しいな……。
そう思ったんだ。