【完】DROP(ドロップ)
「奈央ちゃん、痛いよー」
「うるさいよ。ビックリしてるじゃない、雫ちゃんが」
あたしを簡単に“雫ちゃん”って呼ぶ、その綺麗な人は本物の杉下奈央さんだ。
今日見たといっても、後からだったしちゃんと見るのは初めてで。
すっごく小さな顔に、細い手足。
女優って、こんなに綺麗なんだ……と息を呑んでしまった。
目の前で見る人は、いつもテレビに出てる人。
何であたしが、こんなところに居るんだろう。
思う事は、そればかりで他の事なんて考えもしなかった。
どうして、こんなに早く2人が現れたのかなんて、これっぽちも頭に浮かばなかったんだ。
「でもさー、圭矢にこーんな可愛い彼女が居たなんて俺は聞いてねーぞ?」
“可愛い”
社交辞令だとわかっていても、正直ちょっと嬉しい。
「別に、陸に言わなきゃいけないって事はないと思うけど」
「生意気なクソガキだなぁーお前は!」
「クソガキって、1つしか変わらないだろ」
「1つでも俺が先輩だ!」
ニカッと笑って自慢げに言った陸さん。
それを見て圭矢が、鬱陶しそうに溜息を吐きながら
『同じグループだろ』
と呟いた。
この2人って、いつもこんな感じなのかな。