【完】DROP(ドロップ)
「ちょっとすみません」
圭矢君の小さな声が聞こえ、顔をあげたと同時に
「……何してんの? おじさん」
いつの間にか、あたしの隣に立っていた圭矢君が掴んで上に挙げている手。
そこには、サラリーマン風の中年のおじさん。
え?
「痴漢って犯罪じゃないの?」
「えっ、い、いや。あ、う」
掴まれた手を必死に外そうとするも、圭矢君が掴んだ腕は離れない。
その瞬間だった。
駅に着いた電車のドアが開いた。
周りで驚いた顔をしていた人達が流れる様に出て行く。
それをチャンスとばかりに、痴漢をしていたおじさんも出て行ってしまった。