【完】DROP(ドロップ)
誰のも受け取らない。
その言葉を聞いて、鞄を握る手に力が入った。
鞄の中には、未だ手に掴んだままのチョコレート。
今日の為に、最後のチャンスの為にラッピングされた、あたしの想いをたっぷり込めたチョコレート。
こんなのを聞いた後に、渡す勇気がある子なんているんだろうか。
鞄の中のチョコレートが可哀想で。
あたしが、あたしの勇気が可哀想になった。
「ねぇ、雫…」
「圭矢、今日は朝から何回目~?
モテるんだから可愛い子と付き合っちゃえばいいのに。
勿体ないよー? 」
こんな時は、いつもよりお喋りになる。
心にもない事まで言ってしまう。
鞄から出した手にはチョコレートはない。
圭矢は気付いてると思う。
あたしの鞄の中のチョコレートに。
だけど、渡す勇気なんてあるわけないでしょ?