お稲荷様のお呼びです!


止みそうにない雨を見続けて、一つくしゃみが出た。


……風邪だけは引きたくないんだけどなあ。


鼻を啜りながら、もう一度辺りを見渡す。


家への帰り道にはコンビニなんて便利なものはない。


駅から離れたこの場所は、割と神様を崇める地域で有名だったりもする。


昔から家に代々伝わる神様の御言葉とかなんとかが、大事に大事に伝えられ続けている。


……まあ、しきたり事多いからちょっと窮屈な所もあるらしいけど。


そんな地域の今は閉まった駄菓子屋さんの軒下が、神様よりも有難かったりするのもまた事実だし。



「舞い降りし泡沫の……白き華、咲けりけり。今宵、月夜の風に舞い、己の命そこにあり」



雨の音にかき消されるように、自信なく呟く。


古典が苦手な私にとってこの言葉はチンプンカンプンで仕方ない。


しかも合ってるかも危うい。


こんなのがなんで代々受け継がれてきてるのかが謎でしょうがない。


でも、おばあちゃんが昔話で聞かせてくれたお話で、この言葉達には言霊が宿るって言われたことあったっけ。


何か不思議な力がある。


だから、無闇やたらに言っていいものでもない。


そう言われたのを思い出して、きゅっと口を閉じた。




< 9 / 253 >

この作品をシェア

pagetop