跳んで気になる恋の虫
虫オタ男子と高跳び女子が出会ったら
キミと夏の虫
バーの向こうに見える空は、どこまでも青く、嫌味なくらいに爽やかだ。
「ねえ、私がこんなにもやもやしてるっていうのに、なんでそんなに爽やかなわけ?」
言われなくてもわかってる。愚痴る相手を間違えてることは。
カレシが浮気してることを、みんなに知られることが怖かった。
夏休みのお祭りで、みんなに紹介し終わるまでは何も起こしたくない。
だから私は、見て見ぬふり、知らぬ存ぜぬを貫き通せばいいのだけれど、なんだかそんな自分にもやもやする。
結局誰にも言えないわけだから、空にでも愚痴を聞いてもらわないと、気持ちの持って行き場がなかった。
私、飛島ナミは、高校の陸上部で高跳びをやっている。
今日はさすがに跳べなさすぎて、部活が終わった後、一人残って練習をしていた。
みんなが集中できないと嘆くセミの声をBGMにして、私は助走しはじめる。
最初はゆっくり、それからだんだん速く。
ゆるくカーブを描いてバーに近づき、タンッと踏み切ってジャンプ。
だめだ。
跳べない。
ガチャンと外れたバーと一緒に、マットの上に転がった。
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