跳んで気になる恋の虫
私は、ポケットに携帯をしまうと、大きく深呼吸してから振り向いた。
虫屋が、目をキラキラさせながらチョウを見つめているのが見える。
「電話、終わりましたか?」
「……うん」
私の視線に気づいた虫屋は、両手をちょっと前に出し、チョウを私に差し出した。
「もう一度乗せますか?」
「うん……」
虫屋からチョウを受け取ると、なんだか急に涙が出てきた。
両手がふさがっていて、涙が拭けないから下を向く。
ぽとんと白い綿に涙が落ちると、チョウはパッとそこから離れて飛んでいってしまった。
「あ、ごめんなさい」
ずずっと鼻をすすりながら、手の上に残った綿を握り、拳で涙を拭いた。
「いいですよ。また呼べますから。それより、なんで泣いてるんですか?」
虫屋の直球質問にびっくりして、思わず言ってしまう。
「普通、こう言うときは見ないふりするとか、なんで泣いてるとかは聞かないでしょ?」
「あ、すいません。俺、人間の普通ってよく分かんないんです」
虫屋も人間なんじゃないの?変なやつ。
「ていうか、いきなり好きとか、普通は言わないでしょ?」