跳んで気になる恋の虫
「好きなものを好きって言うのは普通じゃないんですか?だって、ナミが大好きですから……」
「好きなものを好きって言うのは普通かもしれないけど、順序とか雰囲気とかいろいろ……ていうか、なんでナミって呼ぶの?なんなの?」
泣いたことで、体裁を気にする気持ちが吹っ飛んで、思ったことをそのまま虫屋に話しているのが、自分でも分かる。
こんなに感情的になるのは久しぶりで、なぜだか涙が止まらない。
虫屋は、そんな私を見てポケットから綿の塊を取り出すと、丸めてポンと投げた。
「とりあえず拭いてください」
「普通投げないでしょ。しかもなんで綿なのよ」
私はそれを受け取り、涙を拭くというよりは吸い取らせた。
「すいません。虫には普通、綿を使いますから……」
「私は虫じゃないっつーの!それよりなんでナミって呼ぶのよ」
なんだか、なんで泣いてるのかわからなくなってきた。
「あ、ナミって呼ぶのは、ナミアゲハっていうチョウだからです。あのチョウは俺が羽化させたので、親しみを込めてナミって呼んでます。で、ナミが大好きなのは、綿に染み込ませた砂糖水なん……」
「……へ?あ、あーーちょ、ちょっと待って!」
私は手を広げて、虫屋の言葉を遮った。
出ていた涙がヒュッと引っ込み、じわじわ広がる可笑しさに口の端が緩んでくる。