跳んで気になる恋の虫
今日は、今まで跳べていた高さも、全く跳べていない。
カレシができてから、羽をもがれたチョウのように全く跳べなくなっていた。
バンッと分厚いマットを叩いて立ち上がり、もう一度スタート位置につく。
小さなセミの声が大きく響き渡る校庭に、ザーッと夏色の風が吹いた。
「ナミ、先に帰るね」
「あ、うん」
同じ部活で親友の沙知が、制服に着替えて部室から出てきた。
私は、愛想笑いを浮かべて返事をする。
「今日は、大学生のカレシとデートじゃないの?」
「……違うよ。バイト入ってるし」
また、小さなウソが増えていく。
浮気現場を目撃してから、カノジョとして義務のようにこなしていたメールも電話もするのをやめた。
もちろんカレシから連絡が来ることもなく、2週間が過ぎようとしている。
それでもつきあっているんだよね。
煮え切らない自分に、ただひたすらもやもやを繰り返すだけの毎日。
「そっか。じゃ、大会が終わった後、花火大会でのお披露目をすごく楽しみにしてまーす!」
「あ、うん」
胸がチクリと痛んだけれど、愛想笑いを崩すことなく沙知を見送ることができたのでホッとする。
それと同時に、親友にまで愛想笑いする自分にもやもやした。
いつから沙知に、本当の自分を見せなくなっちゃったんだろう。