跳んで気になる恋の虫


それからしばらく神社の林を歩き回って、いろいろな虫を捕まえた。

虫屋の話は面白く、何を聞いても答えてくれる。

あっと言う間に時間が過ぎた。

「もうすぐ日が暮れますね。そろそろ帰ったほうがいいですね」


夕暮れになると、また別の虫の声が響き始める。

虫屋に聞いてみたいことが、まだまだたくさんあった。

けれど、帰りたくないと言うのも変な感じがして、ぐっと言葉を飲み込んだ。

虫屋は、足元に落ちたセミの亡骸を土の中に返しながらつぶやいた。

「虫たちはみんな、短い命を精一杯生きています。人間の命だって、そうは長くないんだから、好きなことを精一杯やりたいなあって思うんです。誰に何を言われようとも、精一杯。後悔のない人生を送りたいですから」

虫屋のつぶやきに、ドキッとした。

私は、精一杯生きているのだろうか。

「俺はもう少しここにいます。飛島さんは帰ってください」

「えっ?あ、うん……じゃ……」

そうだよね、これって虫取りだもん、現地集合、現地解散が普通よね。

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