跳んで気になる恋の虫


これって、まるで小学校のときみたいだ。

学校が終われば公園に行って、そこで会った友達と遊んで、時間になったら帰る。

またねと言うほどの仲じゃないけど、さよならと言うほどよそよそしくもない。

だからと言って、大きく手を振りながらバイバイするほどでもない。

会えば楽しく遊ぶけど、約束はしない。

公園に行くのは遊びたいからで、友達に会いたいから行くわけじゃない。


それと同じ……だよね?

私は、虫屋に背を向けて、ゆっくり歩きはじめる。

夕暮れの風に乗って、微かにミカンの香りがしたような気がして足を止めた。

同じ……なのかな?


私は、石段に足を踏み出す一歩手前で、夜になるのを惜しむように鳴くセミみたいに振り返る。

……。


そこに虫屋の姿はなかった。

ホッとしたような、がっかりしたような、よくわからない気持ちのまま、石段を駆け下りる。


私がここに来たのは、虫取りしたいからで、虫屋に会いたいから来たわけじゃない。

急いで自転車に跨ると、頭をポンと叩いて、ごちゃごちゃな気持ちをリセットした。




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